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航行安全性を評価するための道具として操縦シミュレーションは最適ですが、そのためには、浅水域、外力下、低速時など港湾域・沿岸域に特有な操縦運動を正しく推定できることが、操縦シミュレーションには必要とされました。

この要望に応えるため、浅水域におけるPMM試験、低速操縦流体力計測試験、波浪中の操縦運動計測試験、風圧下の操縦運動計測試験、浅水域におけるタグによる操縦運動試験など数多くの水槽試験を行い、港湾域における船の操縦運動を精度良く計算するための合理的な数学モデルとデータベースを構築しました。また、港湾域・沿岸域での航行安全性を検討する訳ですから、舵、プロペラあるいはタグを駆使した実際の複雑な操船状況をシミュレーション上で再現する必要も出てきました。そのため、大型計算機との対話形式によりシミュレーションの実行を進めるシステムの開発を行いました。このシミュレーションシステムは、造船設計で活用されるとともに、港湾土木の分野でも国内で初めて実際の港湾設計(苫小牧東港)に応用されました。以来、国内国外を合わせ30件以上の港湾計画に活用されています。

このように操船シミュレーションの有効性が認められるようになるにつれ、操船シミュレーションをパソコン上で手軽に実施したいという要望が、設計のみならず操船・教育等の各種現場で強くなってきました。この要望に応え、大型計算機とほぼ同様な計算精度をもってパソコン画面上で操船シミュレーションを実行できる、デスクトップ型操船シミュレーションを開発、実用化しました。デスクトップ型操船シミュレータは現在、船社、パイロット協会、設計コンサルタント、大学等の各種教育現場で活用されており、計12台の納入実績を有しています。

 

3. 小型船舶操船シミュレータの開発

近年の海洋性レクリエーションの進展に伴い、海難事故も増加の傾向を示しはじめている状況から、海洋レジャー愛好家に対する、より充実した安全教育が望まれています。このような背景から、造船技術で培った操船シミュレーション技術の新たな応用として、ヨットやプレジャーボートなどの海技教育用シミュレータの開発にも取り組んできました。

平成3年にはシップ・アンド・オーシャン財団のご援助のもとに、初心者から上級者まで幅広いヨット愛好家を対象とした世界初の本格的なヨットシミュレータを開発しました。モーションベースの上に乗った実艇のヨットをコンピュータグラフィックスを見ながら操るこのユニークなシミュレータは、東京国際ボートショーで注目を浴び好評を博しました。本年7月にオープンした「なにわの海の時空館(大阪市海洋博物館)」には、このヨットシミュレータ(図2)が新設され、滅多に乗る機会に恵まれないヨットが気軽に体験できると、その評判は上々のようです。

また、平成4年からは運輸省、日本海技協会、シップ・アンド・オーシャン財団のもとに行われた「小型船舶操縦士訓練用シミュレータの開発」事業に参加し、その試作機開発(図3)に携わらせていただきました。本シミュレータの対象となった小型船舶はいわゆるプレジャーボートで、船速によって姿勢が大きく変化し、それに伴い操縦性能も大きく異なってくるのが特徴です。開発当時、プレジャーボートの操縦性に関するデータは全くなく、水槽での模型試験や浜名湖における実艇試験を繰り返しながら、独自の操縦運動計算法を開発しました。

 

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図2 ヨットシミュレータ

 

 

 

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