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機器メーカーに開発の必要性を理解して頂くのに約半年かかったものの、3種類の試作モジュールを作って船社、乗組員、さらに機器メーカーの方々にもレビューしてご意見をいただき・改善点を反映した開発モジュールが出来上がった。その後機種を拡大しつつ実船に搭載し、今年で累計1000基のモジュールを製作するに至った。

この事例は・このような案件にも(財)シップアンドオーシャン財団の援助を受けて基礎研究が出来たことと・乗組員の意見に真剣に耳を傾けたことが、機器の「安全性と操作性」更には「信頼性」の向上をもたらしたものと思っている。

このモジュール開発を契機に、標準居住区及び機関室配置標準化、非常用発電機や冷凍冷蔵庫のモジュール化、自動車運搬船の車両区域高発泡消火装置、アンモニア冷媒の居住区画冷房装置、バラストポンプ、リバーシブルポンプの開発など、多くのメーカー・船社との共同開発に参加する機会を得ることができた。

今後の課題について、ある船社の方からは「日本の優秀な乗組員の大半は、ここ数年でいなくなる」と伺っており、今後益々乗組員の質の低下が予想される状況で、船社では「船を安全に運航管理することが最重要課題」と感じておられるようである。

乗組員の質は、平常時にはさほど顕著な差は現れないが、異常時に高度な判断を的確に発揮できるのが優秀な日本の乗組員である。船の安全管理について、ISMコードに基づく安全管理証書が発行されるに至った経緯は、乗組員の質の低下による安全運航の阻害要因を危倶した結果であり、関係官庁ならびに船社の安全運航に対する危機感の表れであろう。

日本の造船、舶用メーカーが、優秀な乗組員のノウハウを、船舶建造のノウハウとしていち早く取込めば、日本造船業の独自性の発揮に一役買えるのではないだろうか。近年の情報機器の発展で、乗組員の高度なノウハウをデジタル化することは十分に可能になっており、甲板、機関を問わず、操船、荷役等全ての場面において、コンピューターを駆使して総合判断し、簡単明瞭に、かつ的確に指示を出せるシステムは可能である。

ある船社では、ここ数年かけて独自に乗組員の操船ノウハウ、機関管理、荷役管理等のデータをデジタル化し、船の管理と、乗組員訓練用のシュミレーターとして、最新の建造船に採用してきている。しかし、乗組員の頻繁な交替と、情報技術の進歩に応じたシステムの更なる高度化に、迅速に対応出来ない状態になっており、日本の舶用メーカー、造船所および船社が協力して、各自の分野を担当しながら、共同開発を進めるべきである。共同開発によって標準化し、どの船にも同じシステムを搭載することで、乗組員が船を乗替えても、操作に対する習熟度が継続的に増し、乗組員の意見を安定的に反映して、進化させていくことが必要でないかとの意見であった。

この船社のいわれることも、現在進められているSR240「新しいフリートサポートシステムの開発」も、いずれも「安全で使い易い船」を目指したもので、優秀な日本の乗組員のノウハウをハードウェア、ソフトウェア両面から、世界に先駆けて、優秀なシステムとして実用化されることを多いに期待している。

私共も関係業界の一員として、この分野の研究開発に力を注ぎたいと考えている。

 

 

 

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