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(巻頭言)

 

ある機関長のレポート

喜多宏司

 

数年前、あるベテラン機関長から、わが社に一通のレポートが寄せられた。機関室の配管が複雑で、乗組員が装置を理解した頃には、また新しい乗組員と交替になってしまう。もっとシンプルで操作し易い装置にすれば「安全で使い易い船」になるというご意見であった。造船所では、推進性能や構造解析・振動解析などの研究には、多くの労力をかけてきたが、「安全性と操作性」について、どれほど研究したであろうか。商品価値の基本が、「経済性が高く、安全で、使い易い」ことにあるとすれば、「安全性と操作性」に対して重要課題として取組む必要があるのでないかということになり、調査を始めた。

「乗組員が操作し易い配管装置」とはどんなものか、乗組員や船社の方々に話を伺い、他社で建造した船も見学したが、具体的なイメージが纏まらないでいた。そんな時にある船社の方から、欧州の造船業はモジュール化が進んでいるので、研究してみたらとのアドバイスを頂いた。早速欧州の造船所と舶用メーカーを訪問してみると、日本の製品は欧州のものより優れているという自分の思い込みとは全く異なり、非常に目新しいものであった。欧州の造船所の多くが衰退した中で、特定の舶用メーカーは、その製品の独創性と特有なコンセプトによって、造船所や船社に受け入れられて生き残り、成長を続けることができたようである。造船所内での機器の取付けと配管工事を併せて施工する機器メーカーもあり、どうすれば取付・配管工事や、操作・メンテナンスが容易にできるかを、機器の設計に即反映できることから、コンパクトな機器のモジュール化が進んだものと思われる。

時期を同じくして、「小型船機関室の建造方法の合理化研究」に関して、(財)シップアンドオーシャン財団のご理解をいただき、機関室の配置と建造方法について、様々な基礎的研究を進めるとともに、ユニットとモジュールの違いについても、深く研究することができた。モジュール化すれば、ある機能が一つの装置にまとまり、一目瞭然で全体を把握し易く、操作が容易で、ユーザーである乗組員の意見が反映し易くなる。

「操作の容易な配管装置」にするには、モジュール化が最適との判断から、機関室機器のモジュール化の研究を開始した。採用する機器の選択にあたり、機器のコンパクトさや、信頼性・安定性の調査データを評価し、ターゲットを決めて装置の設計を始めたが、欧州のようなコンパクトなモジュールができなかった。そこで、再度欧州に出向いてモジュールを調査し、日本の舶用機器メーカーに、欧州のメーカーと同様なコンセプトで、モジュール化に適した機器の開発を依頼した。

 

※ (株)新来島どっく 常務取締役 技術設計本部長

 

 

 

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