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地球の表面で暮らす我々にとっては、周囲の外気の温度と同じ温度の熱エネルギーはそれ単独では価値がない。しかし、科学的には外気温の熱もエネルギーであり、これを他の形態に変換することができる。ヒートポンプはこの大量の無価値なエネルギーを巧妙に利用する機械で、電気などで力学的仕事を入力してその何倍もの外気温の熱エネルギーをくみ上げて高温の熱エネルギーを供給することができる。

 

2. 人類のエネルギー利用規模

人間のエネルギー消費について若干の数値を挙げておこう。人間の各種身体運動のパワーは、エネルギー消費率では数百ワット(園芸などの軽作業)から数千ワット(スキー競技など)、これによる有効な力学的仕事としての出力はその約5分の1である。このような身体運動を含めた生物としての人間に必要なエネルギー所要量(新陳代謝)は、平均すれば約100ワットである。この生物としての人間が必要とするエネルギーは食料から得ている。食料問題も人類の重要な課題であるが、通常のエネルギー問題で扱う対象に食料は入っていない。

食料から得るエネルギーは別にして、日常生活や生産、輸送などのために、現在の人類は、発展途上国を含めた世界平均でも一人当たり約2000ワット、高度な文明生活をおくる多くの先進国ではこの2倍以上の消費率でエネルギーを使用している。なお、ここではエネルギー商品として金銭取り引きされるもの(商業エネルギーと呼ぶ)だけをカウントている。一人当たり2000ワットに世界人口約60億人を乗じると、世界全体での人類のエネルギー消費率(パワー)は約12兆ワット、これを1年間のエネルギー所要量に換算すると、約360EJ(EJ=エクサジュール:1018ジュール)という莫大な量になる。

エネルギー統計の単位には、各種のエネルギー資源の消費量もよく用いられる。特に、現在のエネルギー消費の中で最大のシェアを占める石油の消費量に換算することがよく行われる。石油1トン当たりの発熱量107キロカロリーは、石油換算トン(TOE、ton-oil-equivalent)と呼ばれ、エネルギー問題の検討では最もよく用いられるエネルギー単位である。この単位を用いると現在の世界のエネルギー消費量(パワーで約12兆ワット、エネルギーで年間360EJ)は、年間約90億TOEということになる。

なお、人類のエネルギー消費には上記した食料、商業エネルギーの他にも、薪、動物の糞、農業廃棄物などの非商業エネルギーがある。非商業エネルギーのほとんどは伝統的なバイオマスのエネルギー利用で、これは発展途上国の主要エネルギー源となっており、その使用量は年間約10億TOEと推定されている。

 

3. エネルギーシステムの発展と課題

エネルギーと文明の関わりは、数十万年前とも百数十万年前ともいわれている火の発見にまでさかのぼる。火の発見は言語と並んで、他の動物にはみられない人間の独自技術である。しかし、エネルギーとしての火の利用法は長らく照明、暖房、調理等の直接利用にとどまり、力学的仕事に変換して動力として利用するようになったのは比較的最近のことで、18世紀の産業革命以来である。

産業革命以前の動力源には、極めて長期の間、初めは単位出力が1キロワット以下の人力・畜力、後にもたかだか10キロワット程度の風車、水車が用いられていた。これに対し、産業革命を推進した蒸気機関は火を動力に変えることで大きなパワーを得ることに成功した。18世紀末頃には既に、人力の約1000倍、100キロワットクラスのエンジンが利用されていた。今日では、大型の発電所に見られるように、100万キロワットを超える蒸気機関さえ珍しくない。蒸気機関はエネルギー技術に革命的変化を起こし、紡績、製鉄などの工場の形態を一変させ、鉄道、蒸気船により交通機関の役割を飛躍的に高め、人類の歴史を変えた。エネルギー文明史ではこれを動力革命と呼んでいる。

 

 

 

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