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小型旅客船に対する米国内建造要件の適用免除の具体化については、メキシコ湾岸の中小造船所が大反対を繰り広げ、議会へ圧力をかけることは確実である。

 

(米国内建造要件撤廃論議)

これまでのジョーンズ・アクト改革派(反対派も含む)の傾向を見ると、ジョーンズ・アクトによる保護に全て反対又は大部分に反対から、保護の対象の内の米国内建造要件に反対又は緩和へと変化しているといえる。あるいは、改革派として、造船所と海運会社の利害の相反をつき、最も着手しやすい分野から改革を図ろうとしたのかもしれない。実際、米国内の造船所の商船建造コストは国際市況の少なくとも2倍以上である。米国船社としては、新造船建造資金はあまりに巨額であり、ジョーンズ・アクトが一片の法律に過ぎず、これが天地不動のものでない以上、調達にはリスクが大き過ぎ、また、金融機関や投資家も容易に資金を融通しない。この米国建造要件緩和に的を絞った試みは、一時的には成功するかに見えたが、米国海事産業界や労働界の団結は堅く、現在までのところ失敗に終わっているが、これには2つの要因があると思われる。

一つは、米国内建造要件の緩和が及ぼす影響である。これが内航保護制度に対する最初の規制緩和となれば、第二、第三の規制緩和措置が執られることは十分に考慮される。最終的に、内航保護制度が保護の対象としている他の2分野の規制が緩和されることを恐れた米国船社や米国海員組合が、米国造船業界に加担し、米国建造要件の緩和に反対した。米国海事産業界や労働界は、内航保護制度が、保護の個々の保護対象毎の制度ではなく、パッケージとしての保護制度であることを明確にした。

今一つは、最近になって、数隻のジョーンズ・アクト船が発注され、ジョーンズ・アクト船の建造需要が顕在化してきたことである。これは、どうしても代替が必要な高船齢船があることに加え、1990年の油濁防止法(OPA90)により既存の油槽船船腹のかなりの部分が2005年までに「強制的」に退場させられることが背景にある。ジョーンズ・アクト船の建造需要が顕在化すれば、米国造船業に対し需要創出効果を挙げていない、という改革派の論拠の一角が崩れ、また、新造船を発注した船主や関係者が他者にも同様の「負担」を求めるのは確実である。なお、ジョーンズ・アクト船の建造需要が顕在化してきたことには、Title XIによる建造資金融資保証制度の存在と不可分でない。

 

 

 

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