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6.4 融資の債務不履行

1990年半ば以降の海運市況の悪化により、借入人の現金資産は徐々に使い果たされ、船舶の市場価値が下落する結果となっている。これは、特にドライバルクの分野でそうであるが、1998年初にはウェットバルクの部門にも影響を及ぼすようになった。特に市場価格に関しては、ウオン安と円安の結果、韓国と日本の米ドル建新造船価格が低下したために、さらに下落することとなった。全ての船舶価値が低下したために、担保カバー条項に基づいて以前は確保されていた担保クッションが消え去り始めた。銀行は担保の流動化を厳しく規制されてきており、これにより、1999年は船舶の市場価値がある程度安定することになる。ほんのわずかな銀行のみが、海運ローンの不履行を経験していると報告されており、これらは金額面では、一般に大した額ではないと思われる。しかしながら、1980年代の教訓では、低収入の期間が続くと、大手海運会社といえども、ひどく弱体化し、市場が更にほんのわずかでも悪化すれば、簡単に倒れうる。

 

6.5 EMEにおける海運銀行信用の利用可能性

海運市況の悪化により、海運ファイナンスの供与に積極的に関わる銀行の数が減少し、その他の貸出人も「質への逃避」に向かう結果となっている。また、銀行が海運ビジネスから手を引いたり、船舶ローンのポートフォリオを減少させている中には、外的な要因というよりは内部的な事情による場合もある。いずれにせよ、結果は同じで、海運クレジットのリスクを引き受けようとする銀行が少なくなっている。もう一つの要素は、銀行の統合で、それぞれの海運ポートフォリオを一つにまとめることで、将来の海運ポートフォリオの総額が減少する結果となりうる。銀行統合の傾向はこのまま続く様子で、海運債務の利用可能性が更に減少することになりうる。報道されている1998年及び1999年の注目すべき変化としては、以下があげられる。

 

海運業からの撤退:

長期信用銀行、日本(財政的リストラ)

Banque Paribas、フランス(全般的銀行戦略の変化)

Barclays、英国(全般的銀行戦略の変化)

 

銀行の海運/プロジェクト部署の統合

ChaiseとChemical、米国

MidlandとHong Kong Shanghai Bank、英国

 

海運市況の悪化と非常に多くの小規模銀行の撤退によって生み出される結果は、海運クレジットのためのEMEのシンジケート・ローン市場への参加者の減少である。そのため、今日では、借入人にとって全面的に引き受けられたローンの提供を受けることが、より困難になっている。ローンは「シンジケートを条件とする」として提供されるであろうが、実際には、それは不可能であろう。これに対処する一つの方法は、銀行が「クラブ」を作り、参加を分かち合うことである。この場合、通常、借入人のコストは増加し、そして/あるいは ローンを完了するためには「最も高い信用」を求めるクラブの参加者の要求を満足しなければならないので、クレジット条件はより厳しくなることとなる。

 

 

 

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