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○低木から高木への移行

雑木林の構成種であるコナラ、クヌギ、アベマキなどは樹高25mにも達する高木であるが、かつての雑木林は8年から20年程度の短い周期で伐採されたため、林の高さは10m前後に抑えられていた。このような状態で管理された林を『低木』とよぶが、現在ではこの低木状態から脱して、『中林』を越えて20mにも達する『高木』となった林分もある。『低木』から『高木』への移行は、植生景観の変化を意味し、また、生育していた草原植物の激減を伴うが、必ずしも悪い面ばかりではなく、樹林が発達することによって森林性の生物相が豊かになり、レクリエーション的利用もしやすくなるという面もある。

 

○ツル植物による林冠木の枯死

里山として利用されていた当時は、まず第一にツル植物は伐採・除去されていた。放置によってフジ、クズ、アケビ、ミツバアケビ、アマヅル、サルナシなどのツル植物は繁茂し始め、樹幹をツルによって締め上げるとともに、林冠を覆って光合成活動を抑制する。この結果、林幹木は枯死し、そこにギャップが生じるとともに、さらにそこよりツル植物が広がってゆく。小規模な里山ほど、周辺部からのツル植物(特にクズ)の侵入があり、破壊が早い。しかし、ツル植物が生育することによってフジやクズが開花し、アケビ、サルナシなどの果実が実るなど里山に彩りを添えるという側面もある。

 

○ササ類による低木・草本の生育阻害

里山にはネザサ、アズマネザサ、ミヤコザサ、チマキザサ、チュウゴクザサなどのササ類がよく出現する。これらのササ類は柴として刈り取り・利用されていたためにかつては林床一面に集茂することはなかったが、放置によって、林冠の閉鎖していない明るい林分ほど急激に増加し、人の立ち入りができないほど密生しているところもある。特に関東地方におけるアズマネザサの繁茂は著しい。裏日本側ではチマキネザサの繁茂が目立つ。北摂地方ではネザサ類が目につくが、それほど極端に優占化しているところは少ない。

 

○照葉樹(常緑広葉樹)による低木・草本の生育阻害

ササ類と同様、刈り取りがないために、耐陰性の強いヒサカキ、アラカシ、ネズミモチ、サカキ、アセビ、ソヨゴなどの照葉樹が下層に繁茂し、低木層や草本層に生育する他の植物、特に落葉広葉樹の生育を大きく阻害する。北摂地方ではアラカシやヒサカキの優占化が目立つ。

 

○アカマツの枯死

里山の放置とマツクイムシ(マツノザイセンチュウ)によるマツ枯れとは直接の因果関係はないが、里山の放置が始まる昭和30年から昭和40年頃よりマツ枯れの進行が顕著となっている。かつてはマツ枯れが発生するとその罹病したマツを切り倒し、燃料として用いたので、マツ枯れの伝染がなかったと考えられる。北摂地方のような土地条件の良好な場所ではマツが枯れた後に下層木のコナラ等が生育し、雑木林に遷移するが、播磨地方の沿岸部のような不良な土壌条件下ではマツ枯れ後も他種の発育が悪く、マツの枯死木が林立する劣悪な植生景観が継続している。

 

○コシダ、ウラジロによる草本の生育阻害

アカマツ林の林床に生育するコシダ、ウラジロは柴刈り時にそれらも一緒に刈り取られかつてはそれほど優占化することは少なかった。放置によって繁茂し始め、さらにマツ枯れによって林内は明るくなったため、淡路島南部や播磨地方の沿岸部のように完全に優先化している地方も少なくない。優占化によって林床の種多様性が低下するだけてなく、コシダ、ウラジロの枯葉はよく燃えるために、山火事を誘いやすく、その山火事によってアカマツ林全体が崩壊する。

 

○遷移の進行

前述したように照葉樹の繁茂は、低木、草本の種多様性を減少させるが、それ以外に長期的な遷移の進行によって、アカマツ林あるいは雑木林から照葉樹林への植生景観が変化する。遷移の進行自体は自然現象であって必ずしも悪いことではないが、これによって里山景観が大きく変わり、風土性や地域景観が失われる。また、遷移の結果成立する照葉樹林はアラカシ、ヒサカキ、ネズミモチ、ヒイラギ、アセビ、ソヨゴなど現在二次林に生育しているごく少数の照葉樹林要素から構成される単純林であり、かつての照葉原生林のような種多様性の高い樹林に戻るわけではない。照葉樹が優占することによって里山の構成種はほとんど生き残ることができず、種多様性は著しく減少する。

 

○竹林の拡大

里山構成要素の一つである竹林は農家の裏山などに自家消費用(竹材、筍)の小規模の林分が大半であった。それらは里山の優先林である雑木林やアカマツ林の中にあって特異な外観をもち、里山景観の重要なアクセントになっていた。しかし、竹林は放置されることによって、地下茎によるすさまじい繁殖力により周辺の各種樹林内に侵入し、その樹林を駆逐し、面積を拡大させている。池田市だけではなく、竹林の拡大は全国的にみられる現象である。竹林の拡大によって、里山景観の多様性が損なわれるだけでなく、竹林の内部の暗さのために、種の多様性が失われるという状況が認められる。

 

○動物の影響

動物の生息密度の高いところでは動物による食害や踏みつけによって林床植物や高木(樹皮の食害)が多大な被害を受ける。近年池田市でもイノシシやシカの被害が目立つようになっている。

 

○人の影響

エビネ、カンアオイ、カンランなどの植物は、近年の野草ブームのためか人に採取されることが多くなった。このことによって、絶滅の危機状態に陥った種が多数存在する。また意識的ではないにしろ、多数の人が里山に立ち入ると、林床の植物は踏みつけ等によって大きな打撃を受けることになる。

 

 

 

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