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宇宙飛行士は、グローバルな地球を一望のもとに見ることができる。それでは、宇宙からグローバルな地球を眺めれば、花を観察するようにグローバルな自然を観察することができるか、といえば、それは不可能である。宇宙からみた地球の自然は動きがないからである。地球上から見ると、上空の雲がゆっくり流されているのを観察できる。上空の雲は、風速数十m/sの偏西風で流されている。その移動は、その場にいれば、かなり速い速度である。しかし、10kmほど離れた地上からでは、ゆっくりした移動に感じられる。視野が広くなれば、視野の中の長さが短くなるためである。雲から100km以上離れたスペースシャトルの上では、雲の移動はまったく感じられないだろう。視野の中の入った地球の端から端まで雲が移動するのに数日間もかかってしまうためである。それ故、宇宙から見る地球は、宇宙から撮影した地球の写真を見るのとほとんど変わらない。

メカニズムを理解するのに、専門家は数学の助けを借りることができる。数学は、もともと、自然を定量的に捕らえるために発達した学問である。それ故、数学的な理論は、自然の仕組みをよく記述することができる。しかし、数学の言葉自身が日常生活では使うことのない特殊な言語であるから、一般市民が数学を基に自然を理解することは不可能である。

それに代わりうる手段として、本研究では、模型による自然現象の理解を探求する。本研究では、3年間に渡って、さまざまな模型を考案し、その効果を講義などを通じて確認した。具体的な模型について以下に述べる。

 

2. 二つの視点で見る地球

大規模な自然現象を小さな模型で観察するのは、地球儀の発想と似ている。大きさを縮小することによって全体の様子が眺められるわけである。しかし、ここで考察する模型は、時間的な変化が加わる。地球儀は静的であるが、動的な地球儀を作る発想である。

この装置の意図は、自転する地球儀と、地球と共に回転しながら、その一点を観察するテレビカメラの映像をモニターテレビで見ることによって、地球の自転と静止気象衛星の位置関係を実感すると共に、緯度によってコリオリの力が異なることを示すことにある。図1に実験装置の概念図を示す。円形の枠にテレビカメラが固定してある。但し、このカメラはレンズの光軸上を自由に回転するように設計されている。テレビカメラの映像は、電波でモニターテレビに送る。すると、モニターテレビには、あたかも、宇宙から地球を見たような映像が映る。この状態で、地球とカメラを同時に回転させる。このとき、モニターテレビに映る映像は回転するであろうか。

実は、カメラの固定された緯度に応じた回転数で映像が回転するのである。カメラが赤道上にある場合(図1の場合)には、全く回転しない。カメラが北極の真上にある場合には、カメラは回転しないで地球だけが回転するので、モニターテレビに映った映像は、地球の自転速度で回転する。中緯度にカメラが固定された場合は、直感的に理解することがむずかしいが、モニターテレビの映像を観察することによって、緯度に応じた自転効果が発生することを納得することが出来る。

また、この装置に赤道の上からプロジェクターの光を当てると、昼と夜の交代を再現することができる。宇宙からみた昼と夜の関係が、日常生活の体験と結びつくわけである。

 

 

 

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