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国際保健協力フィールドワークフェローシップに参加して

金子節子(東京医科歯科大学医学部5年)

 

私がフェローシップに参加した動機は、発展途上国に於ける医療援助とは実際にどのようなことをやっているのか見てみたい、という至極単純なものだった。フィリピンに行って、病気ではなく人間を見よ、という言葉を思い出した。生活レベルの差が激しい途上国においては、衛生環境や栄養状態、その集団の教育レベル、職種、収入、労働条件等、医療以外の要素の健康への影響力が大きい。将来的なコストを考えると病気になってから治療するよりは、予防する方が確かに価値的であると感じた。

しかし、実際には政治、経済、慣習など乗り越えなければならない壁がたくさんあったのである。国際保健とは、思った以上に大きなものを相手にしているのだと思った。だからこそ、WHOやJICA、DOHなどの機関が、一つ一つの問題に焦点を当て、着実に一歩一歩進んでいく必要があると感じた。本来、政治も経済も医療も人間が幸せになるためものなのに、経済発展によって貧富の差が拡大し、一部の心ない政治家が政治を操っているという現実に、やり場のない憤りを感じたし、この現状がどうしたら変わっていくのだろうかと考えると悲観的になってしまっていた。

そのように私が感じていたにも関わらず、パヤタスで訪問した家のお母さんは実に生き生きとしていた。長男は高校を卒業したが、定職につくことが出来ずに結局はゴミ拾いをしている。それでもNGOから奨学金をもらいながら、さらに4人の子ども達を学校に行かせていた。自分もゴミ拾いと幼稚園のボランティアをしている。貧しくとも子ども達に教育を受けさせよう、人のために働こうというたくましき前向きな姿勢に私は尊敬の念を覚えた。

タルラックで出会ったBotika Binhiの管理者の女性が、「(Botika Binhiのシステムを)他の地域の人たちにも広めていきたい」と語る表情は輝いて見えたし、助産婦さんや、Health Workerたちが前向きに働いている姿が印象的であった。

自分たちの生活のために自分たちでできることを実行に移していく力強さ、地道な努力に希望を感じた。将来的に、このように地域で働く女性の存在はさらに重要になってくると思われる。働く人たちの思いにもっと近づきたかったが、それは今後の課題としたい。

今回、WHO・JICA・NGOの活動など様々な角度から見学をさせていただいたが自分がどのような形で国際保健に貢献できるか、まだ全く見えないでいる。そこで思い出すのは、眼前にある山に登ったとき初めてその先の道が見える、という言葉。一つ一つの小さな目標に対して、今の自分のベストを尽くしていく中で、道は開けていくのではないかと少々楽観的に思っている所である。その過程で、今回の体験が必ず生かされていくことと思う。フェローシップで知り合えたすべての方々との出会いを生涯の宝としていきたい。

 

 

 

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