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本人の意欲はともかくとして、上記の症状があるため、授業の途中で気分が悪くなったり、それはそれとして、授業中、何を話しているのか分からなくなることがあったり、また受傷前のように体育の授業はできず、周囲の援助はあっても、通常の授業は困難でした。本人の努力だけではどうにもなりませんし、児童の方も、授業に身が入りません。何よりもそれを聞いた児童の父兄の方から校長あてに苦情がくることにもなりました。

本人もこのような状態のため、次第に気分が沈み、抑うつ的となり、といって、他に仕事が見つかるあてもありませんので、一ヶ月余りで、完全にうつ状態となり、生きていても仕方がないともらすようになりました。もう少しがんばってみるようにと、周囲も励まし、妻も気をつけてはいたのですが、とうとう、ある日の明け方、縊首自殺をしてしまいました。校長、妻子への遺書が残されていました。

 

考察

この自殺事故そのものは、当初の自動車事故による後遺症、ついでそれを悩んでのうつ状態からの自殺と因果関係が認められるということで、公務災害扱いとなりました。

しかし、これに関係していろいろと難しい問題が含まれています。

教師の場合、このような事例でなく、普通の精神疾患等であっても復職の時、完全によくなっていれば問題はないのですが、そうでない時に他の職種、例えば事務職への配置転換というのは、困難というよりほとんどないといってもいいようです。

児童、生徒やその父兄などにしてみれば、同情はしても授業をきちんとしてもらえなければ苦情も出るでしょうし、職場をリハビリの場と考えてもらっては困るという声も出てくるでしょう。

後遺症や精神疾患がよくならないため、職場復帰が完全に不可能なら、公務災害であるか否かは別として、年金的な対処も考えられますが、そこまでいかない時の教師の職場復帰は、現実には極めて困難な状況にあるといえます。

ここでは事例の提示にしかなりませんが、この問題は、学校、教育委員会ひいては文部省が大変頭を痛めていることの一つのようです。

 

【参考】

第2巻 12 三次介入とカウンセリング・マインド

第3巻 3 いくつかの個々の問題について

イ 自殺と自殺予防

6 精神疾患と労働災害

 

 

 

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