日本財団 図書館


本人は、電車に乗ることに不安は感じていたものの、混雑していない電車では、何とか通勤が続けられ、職場ではとりあえず補助的な仕事をしながら、約二ヶ月間様子をみました。

その後は、少しずつ出勤時間を早くし、退勤時間を遅らせる試みをしました。試し出勤を始めて四ヶ月後には、通常の時間での出勤が可能となりましたが、多少の不安を訴えることから、少量の精神安定剤を続けながら完全復職に至りました。

 

考察

この事例の精神医学的な詳しい説明はしませんが、実際に混雑した乗り物に乗れないとか、電車の中で便意をもよおすことが心配で電車に乗れないなどといった、乗り物恐怖症といわれる事例は、必ずしもまれではありません。

このような事例に、薬物療法、精神療法、カウンセリングなども大切ですが、日常生活そのものに大きな異常を認めない時などは、トレーニング的にこの事例のような試みが有効なこともあるように思います。

ただ、現実問題としては、どの職場でも、だれにでも、このような試みが可能とはいえないかもしれません。そういう点で、この事例は、例外的な対応であったともいえるのですが、一応考慮してみる価値があるように思います。

 

【参考】

第2巻 12 三次介入とカウンセリング・マインド

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION