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異国 (詩・三木露風)

 

いつしかに

日暮(ひく)れたり。

 

鳥ひそみ、

家畜ふし、

丘の木に

月青む時。

 

人は出(い)でて

うちのぞみ

歌をうたふ…

 

静かなる

海原や、

はて遠く

恋人もあり。

 

野薔薇 (詩・三木露風)

 

野ばら

野ばら

蝦夷地ののばら

人こそ知らね

あふれさく

いろもうるはし

野のうばら

 

野ばら

野ばら

かしこきのばら

神の聖旨(みむね)を

あやまたぬ

曠野(あらの)の花に

知る教。

 

唄 (詩・三木露風)

 

日が光るのみ、幼き子が唄へば

「蝶々、蝶々」

かくうたへば。

 

草の間(ま)をさやぎて出(い)づる水

また微風(そよかぜ)の

喜悦の喉(のど)。

 

誰(たれ)かうたふ、独りならで

遍(あま)ねき中に

そが唄を。

 

はてしなき空のきはみ

在るとなし、光る顔

緑なる幻に。

 

ながるゝ白き野川の水

木も草も

おのづからなる伴奏(ともあはせ)。

 

日が光るのみ、幼き子が唄へば

「蝶々、蝶々」

かくうたへば。

 

「風に寄せてうたへる春のうた」より (詩・三木露風)

 

1. 青き臥床をわれ飾る

青き臥床(ふしど)をわれ飾る。

春の恋ぐさ種々(くさぐさ)の花をつくして、

また君がため白地なす

祝(ほが)ひの風の素絹(すぎぬ)もて、熱き日光(ひざし)を避(よ)けまつらむ。

 

3. 光に顫ひ日に舞へる

光に顫(ふる)ひ日に舞へる汝(な)が吹く笛の調べこそ

恋するものヽ心にか、

熱き涙とあこがれと風はさあらぬ節まはし。

 

 

 

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