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あるいは、27条が、外国船舶が無害通航権を行使している間であることは前提としており、わざわざこれを規定する必要はないと解する場合(つまり、「航行の利益」を「無害通航権」の保護や考慮であれば、わざわざ規定する必要はないという解釈をとる場合)、さらに、27条が、外国船舶が無害通航権を失っている状況についても規定していると解する場合には、*227条4項の「航行の利益」は、無害通航権と全く同義ではなくなる。そこでは、「航行の利益」とは、無害通航権という一般的な権利を指すのではなく、その特定の具体的な内容を特に意味しているとか、あるいは、無害通航権とは異なる内容を規定していると解する可能性が出てくる。この場合に、「航行の利益」として解される内容としては、具体的には、次のような状況を考えることができる。たとえば、船舶の航行が遅延させられとか運航に支障きたすとかによって、*3積み荷について損害や損失が発生したり、漁船であれば、漁業という生産活動を行えないことによって損失が生ずることがあり、それらが、できる限り発生しないように刑事裁判権を行使することが、27条4項の「航行の利益」の具体的な内容であるという意味である。「航行の利益」という文言は用いていないが、「一般的な通航権」という概念よりも、より特定した内容で、ここで述べたような意味を規定していると解する余地のある規定としては、たとえば、公海上の外国船舶に対する他国による臨検を規定した110条2項(文書の検閲「以上の」検査を行うときに、これを「できる限り慎重に行わなければならない」とする)、海洋汚染を行う外国船舶に対する執行権限の行使について、226条1項(「調査の目的のために必要とする以上に外国船舶を遅延させてはならない」)などがある。*4

また、排他的経済水域上の沿岸国の漁業法令の執行に関しては73条が、海洋汚染船舶に対する執行措置に関しては226条が、保証金の支払いによる船舶の釈放を規定し、さらに、292条は、早期釈放を担保するための特別な紛争解決手続きを規定している。これらの、いわゆる船舶のボンド釈放や紛争解決手続上の早期釈放制度は、船舶の抑留により、積み荷の価格変動に伴う損失、漁業活動が停止されることによる損失などを最小限にとどめることが、その主たる理由であると解される。*5

 

 

 

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