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2. 国連海洋法条約における航行の自由と「航行の利益」

(1) 航行の自由と旗国主義

伝統的に慣習法として成立していた公海の自由を、国連海洋法条約87条と89条は、いくつかの具体的な公海の使用の自由と、いずれの国の主権も及ばない自由として規定している。前者の公海使用の自由の一つとして、航行の自由が存在し(87条1項a)、90条では、「国」の権利としての航行の権利が規定されるとともに、公海といういずれの国の主権も及ばない海域における船舶に対しては、特別な条文上の根拠が存在する場合(海賊、公海上の無許可放送、奴隷輸送など)を除いて、旗国の排他的管轄権が認められている(92条、旗国の規制義務は、94条)。つまり、伝統的な国際海上交通の利益を根拠として、船舶の旗国の権利として航行(passage)を認めることと、船舶に対しては、旗国以外の国が干渉(interference)することを原則として排除するという旗国主義を担保することによって、公海上の航行の自由が制度化されているのである。*1

航行の自由と旗国主義に関していえば、国際海上交通の利益を享受する権利であり、船舶が旗国以外の国の干渉を受けないことによって、公海上の航行の自由を構成していることが確認された。けれども、「航行の利益(interests of navigation)」については、その内容とこれらの概念との関連については、国連海洋条約は、必ずしも明らかにしてはいない。

 

(2) 航行利益

たとえば、「航行の利益」という文言を規定している希少な例としては、領海において、沿岸国が、外国船舶内で刑事裁判権を行使する際の要件に関する27条4項がある。27条4項は、「逮捕すべきか否か、また、いかなる方法によって逮捕すべきかを考慮するにあたり、航行の利益に対して妥当な考慮をはらう」と規定している。もし27条が、船舶内犯罪に関わる船舶内の者に対する刑事裁判権の行使、という状況に適用があり、船舶が「無害通航権」を享受している間と想定すれば、「航行の利益」とは、「無害通航権の行使を阻害しないこと、もしくは無害通行権への影響を最小限にとどめること」であろう。つまりは、「航行の利益」は、「無害通行権の享受を阻害しないこと」であり、「通航」を阻害害しないことと同義であると解することもできる。

 

 

 

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