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トリチウムは半減期が12.5年であり、大気に宇宙線が衝突して生成し、大気から表面海水中へ供給される。1950年代後半から1960年代にかけて行われた水素爆弾の大気圏内実験によってもトリチウムの量は多くなった。海洋のトリチウム量の観測が国際プロジェクト(GEOSECS)で行われ、大西洋のトリチウム分布図が作成され、グリーンランド沖、および南極海では表層水が深層(1000m以深)へ供給されている沈降流がトリチウムの分布から確認された。

放射性炭素(14C)は半減期が5730年であり、トリチウム同様に大気に宇宙線が衝突して生成し、大気から表面海水中へ供給される。大気圏内の核実験によっても放射性炭素は海洋表層へ加わった。GEOSECSプロジェクトによって放射性炭素の測定が大西洋、インド洋および太平洋で行われた。大西洋深層水(深度:2〜3km)の見かけの14C年齢は赤道直下で、500年程度であり、太平洋の赤道直下では1800年であり、北太平洋(北緯40〜45度、深度2〜3km)において、見かけの年齢2000年という古い海水が存在する。したがって、放射性同位元素をトレーサーとして使用することによって、海洋大循環はおおよそ正しいと言える。

 

3. 海ヤカラ1号設置海域の深層水の由来

3.1 深層水の年代測定

海洋大循環の項で述べたように、太平洋の深層水の由来を解明する道具として、放射性炭素のデータが有効である。そこで、フィリピン海北西端に位置する海ヤカラ1号設置海域の深層水の由来を検討するために、2000年9月4日に深度600m、1400mの2試料(各1リットル)を採取し、放射性炭素の分析を地球科学研究所(名古屋)へ依頼した。海水1リットルにストロンチウムイオンを加えて、溶存無機炭素を炭酸ストロンチウムとして固定した。炭酸ストロンチウムとして炭素を固定した試料をべ一タ社(USA)へ送り、ベータ社にて炭酸ストロンチウム中の炭素をグラファイトに変換後、加速器質量分析法(AMS)を使って放射性炭素の測定が行われた。その結果を表2-26に示す。

 

3.2 深層水の見かけの年齢

1950年を0年とし、標準物質(NBS4990シュウ酸)中の放射性炭素量に対し、その比を現代炭素%(percent modern carbon,%)として国際的な慣例に従って計算した結果を表2-26に示した。時間がたつにつれて14Cは放射壊変によって減少していくという原理に基づいて、深層水の年代測定が可能である。

 

 

 

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