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おばあちゃはキリスト教の信者ではないけれど、いつも先生が来てくれるのを喜んでいるみたいです。先生は、まだおばあちゃが元気でいろいろ話ができた頃、ベッドの横に座って長い間話を聞いてくれたし、わかりやすい言葉で、神様がいらっしゃること、神様は天国におばあちゃの場所を用意されていること、そしておばあちゃは安心してそこへ行けばよいことを話してくださったのです。

昨日先生が来てくれた後、おばあちゃはお母さんに小さな声で「ありがとよ」「ありがとよ」と二回言いました。お母さんもおばあちゃに「おばあちゃ、本当にありがとう」と泣きながら言いました。私もおばあちゃが元気な頃は、いつもかわいがってくれたことを思い出して、ベッドに乗っかるようにそばに行って「おばあちゃ、ありがとう」と言いました。握ったおばあちゃの手がしっかりと握り返してくれるのがわかりました。

でも、今日は全然元気がない。「牧師先生が来てくれたよ」と言ってもおばあちゃはちょっと目を開けたけれども、だるいのかすぐ閉じてしまった。

 

お見送り

 

学校のお勉強が終わって家に帰りました。お母さんがいません。どうしたのかと思ったら、手紙があって、「すぐに病院に来なさい」と書いてありました。もう道もバスもおぼえたので一人で大丈夫です。病院についたときに先生と大好きなボランティアさんが何だか悲しそうに立っていました。私は気になっておばあちゃのお部屋に飛んでいきました。お母さんが「さよならをおばあちゃに言ってね」と静かに言ったので、おばあちゃの枕元に座りました。いつものように、ほほえんでいるようなおばあちゃの顔、でもおばあちゃの手が冷たかった。とっても冷たかったのです。あたためてあげたかったけど、もうお迎えの車が来ましたといわれて、お玄関に向かいました。さっきのボランティアのお姉さんや、病院の事務の人、看護婦さんが並んでいました。私は、小さい声でさようならを言いました。もう、屋根の上に、お星さまが出ていました。そうだ、おばあちゃは、犬のチビと同じように星になったんだと思いました。

病院のみんなは、寒いのにずっと外に立って車に乗ったおばあちゃや私たちを見送ってくれました。私は病院の屋根の上に輝いていたお星さまを決して忘れません。

 

またホスピスヘ

 

「明日病院に行くんだけど…」お母さんはそう言いました。もうおばあちゃはいないのに、どうしてまた行くのだろう。私はおばあちゃのことを思い出して悲しくなるから、あんまり行きたくなかったのです。

久しぶりの病院は毎日のようにかよっていた頃と少しも変わっていませんでした。おばあちゃを車椅子に乗せてひなたぼっこに出かけたお庭、おばあちゃが名前を教えてくれたお花はなくなっていたけれど、またちがうきれいなお花が咲いていました。先生や看護婦さんやボランティアの人達にも会いました。おばあちゃのことをいろいろ思い出せてうれしくなりました。

おばあちゃにまた会えたような気がしました。帰りの道でお母さんに「また行こうね」と言いました。ピースハウスでは年に2回亡くなった方々のご家族が集まる“しのぶ会”があるそうです。

 

この物語はスタッフとボランティアが、ホスピスの生活は子供の純粋な目からはどんなふうに見えるだろうかと考えて綴ったものです。この作業は私たちの日常を見直す貴重な機会にもなりました。

私たちは、患者さんやご家族に視点をおいたケアをこれからも続けていきたいと思っています。

(なお本文は特定の患者さんをとりあげたものではありません。)

 

 

 

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