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訪問看護ステーション中井から4]

 

往診について想うこと

所長 吉村真由子

前回、「利用者が選択できる関係づくり」について述べましたが、入院と在宅のどちらでも選択できるという選択肢を作るために最も重要な条件として、医師による往診が可能であることがあげられます。

今回は「往診」について改めて感じていることを述べたいと思います。

私がピースハウスホスピスを訪れて感銘を受けたことの一つに、院長を含む常勤医師が2人しかいないにもかかわらず、交替で往診をしていらっしゃるということがありました。ピースハウスは小規模ながら外来診療をしており、病棟では緊急入院もあれば患者さんの急変にも対応しなければならない忙しさもあります。そのような中で医師が1時間でも往診のために不在となってしまうことは、入院患者さんを支えているスタッフにとって非常に不安な時間となります。そのためピースハウスの医師は、すべての業務が終わってから往診に行ったり、患者さんの状態によっては、休みのときでも診に行かれることもあります。

しかし、一般病院から医師が往診に行くことはなかなか考えにくいことでしょうし、そこまでして在宅にこだわる患者さんも少ないと思います。

在宅の患者さんやご家族の多くは「先生の大切なお時間をいただいて、本当に申し訳ないと思っています」とおっしゃいますが、それでもやはり家にいたいという気持ちがあるからこそ、先生方もそのお気持ちに動かされるのでしょう。

 

初めてお会いする患者さんやご家族のお話から、このピースハウスの外来や往診を受けるまでに、たくさんの紆余曲折があったことが想像できます。癌と告知されてから大学病院や癌の専門病院等で、できる限りの治療を受け、副作用にも歯をくいしばって耐えてきたにもかかわらず、もうこれ以上することがないと宣告されたときのいいようのないショック。治療をあきらめるまでの心の葛藤、医師や治療そのものに対する不信感、これからどうしたらいいのかという不安、死よりも死につつある状態を想像したときの恐怖。私たちにもこれらのお話をすべては受けとめきれないほどです。

しかし、医師が往診し、お話をうかがい「これまでよくがんばってこられましたね」と声をかけたり、「どのようにしたいとお考えですか」と聞いたりすると、「今までこのように聞いてくださる先生はいなかった」とおっしゃる患者さんや、先生に会ってお話することを楽しみにして下さる方もいらっしゃいます。

 

一方で、患者さんが家族に迷惑をかけることを考えると、できるところまで家にいられればそれでいい、というご希望をおっしゃる方もいらっしゃいます。私たちが援助する中で難しいと感じるのは、その「できるところ」がどこまでかを一緒に見つけることです。体の状態が変化したことをきっかけに、私たちがあわてて「もう限界かもしれない」と思ってしまうこともあります。そのような場合に「入院をご希望なさいますか」と先生に問われると、患者さんもこれ以上家族に迷惑をかけられないと感じられ、ご家族からもまた、常日頃感じていた不安が噴き出てしまうこともあります。確かに、先生の目の届くところにいた方が安心だと思われる方もいらっしゃいます。しかし、入院したのちも、患者さんが家族に付き添ってもらいたいと希望されると、結局ご家族は休めないという場合もあります。このようにメリットとデメリットから入院か自宅かを判断することは、非常に難しい問題です。それにもかかわらず、ご家族であれ訪問看護スタッフであれ、入院したら症状コントロールがうまくいくのではないかとか、家族の疲れや不安を取り除くことができるのではないかという期待を持つことがあります。

 

まだまだ体制づくりには課題を残しています。例えば、「とりあえず先生に診てもらえばもう少しがんばれるかもしれない」と患者さんやご家族が思っていても、必ずしもちょうどよいタイミングで往診に行くことができるとは限りません。私たちが訪問して解決することもありますが、どうしても代わりができないこともあります。医師の往診は、在宅の看取りを実現する上で最も重要な条件であり、患者さんの状況を判断しながらコーディネートしていくことも、私たち訪問看護の重要な役割であると感じています。

 

 

 

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