体験記
海外出張にも注射器を
―続・インシュリン自己注射をはじめて―
浅田正博
浅田さんは、本誌4月号で『インシュリン自己注射をはじめて』をお書きくださいました。今回はその続編です。
所用で、スペイン、イタリア、ドイツへ出張してきました。しかし、朝から晩まで名所旧跡を見て歩くこともできず、またグルメな旅は御法度です。今まで何十回となく出張してきましたが、今回からはインシュリンの自己注射というおまけつきです。そして当然のことですが食事コントロール、禁酒、または節酒が求められます。移動日も含めて10日間の旅ですから、今までの経験だとそれほどハードなものではありません。しかし、思想信条、宗教的な理由もなく食事を制限するのは、同伴者には理解しづらいと思います。食事前に必ずインシュリン注射を行うことを説明して席をたち、その度に会話を中断させる気まずさなどありますが、とりあえずすべての場合に実行しました。
今回はこの海外出張記をご紹介いたしましょう。
*( )内は血糖値です(単位mg/dl)
2月9日(朝食前131/夕食169)
朝6時11分、長津田発の電車で水天宮へ。7時過ぎ、TACT(Tokyo Air City Terminal)に到着し、そのまま公衆トイレへ向かい血糖値を測定。朝食前の注射を済ませる。パンと牛乳を買ってバスに乗り込む。成田からフランクフルト経由でバルセロナへ。
朝起きてからバルセロナまでおおよそ24時間でホテルまでたどり着く予定。ディスカウントチケットで、以前のようなサービスは期待できず、とりあえず寝ること。この間、6時間毎にインシュリンを注射。
10日(朝食前123/夕食前100)
夕刻、バルセロナからミラノへ移動、15日までここに滞在。
11日(朝食前123/夕食前160)
見本市会場へ
12日(朝食前111/昼食前86/夕食前76)
朝食後、身体のために徒歩でミラノの中心街へ。以前とは異なり、血糖値を下げるために、努力して120分は歩くこととした。定番のドウォーモ(ミラノの大聖堂)、ビットリオ・エマニュエル通り、スカラ座、モンテナポレオーネ通り、スフォルツェスコ城。また娘から頼まれた買い物を早々に済ませる。
13日(朝食前137/夕食前114)
ミラノから北へ1時間ほど電車に乗ってコモ湖へ。スイス国境に7つくらいある湖の1つで、有名な観光地。昔の教科書には、絹織物の集散地と出ていたような気がします。湖畔近くのケーブルカーの駅から一気に山頂近くまで登り、そこから身体のために約30分歩いて頂上へ。今までとは大いに異なる目的意識が行動基準に加わりました。
14日(朝食前135/夕食前212/就寝前103)
取引先との打ち合わせの後、近くのレストランで昼食。ここで食べたパスタ料理は、茄であがったパスタをパルメザンチーズでからげたもので、料理そのものは何の変哲もありません。ご存じかどうか知りませんが、パルメザンチーズはRV車の装着しているラジアルタイヤのような大きさに仕込まれます。重量は30kgぐらいで、適宜使用していきます。表面は熟成中にカチカチに堅くなります。私たちの食べた料理は、この堅い皮の部分を残して、中身をナイフ、スプーンなどで削り取り、ちょうど大きなフライパンのようになったところにパスタを入れて、残っているチーズにからませるというダイナミックなものでした。