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しかし、患者本人が希望する“望ましい状況”についてはほとんど書かれていないのではないかと恐れるのです。

「どうすれば医療従事者と共に問題解決できるか」といった場合、問題解決とは単にいまある病気を治すということではなく“いまある状況”から“望ましい状況”にもっていく、あるいはどうもっていくかということだと思うのです。

医療者が患者が考えている“望ましい状況”を確実に把握し理解するには、患者本人とのコミュニケーションが充分とれていないとできるはずはありません。現状の把握はできるとしても、患者本人の思っている“望ましい状況”を確認もしないで医療者の価値観で勝手に決められてしまうのを恐れるのです。

医療者のコミュニケーション能力は、いわゆる医学とは異なるものだという考えもあるかもしれませんが、私はこのコミュニケーション能力こそ医療者の最も重要な能力と言っていいのではないかと思うのです。

 

医療者、患者ともに更なるレベルアップを

さて、“いまある状況”と“望ましい状況”がはっきりして、はじめてどうもっていくかという医療上の処置の話になるのです。

診療記録開示の必要性は、まず患者や家族が医療者側に患者の“いまある状況”と“望ましい状況”が正しく伝わっているかを確認したいときに生じると思います。

こんなことは電車の切符を買うときにだって当然(いまいるところと行きたいところを伝える)のことなのに、なぜ病気の時には患者は「先生よろしくお願いします」と言い、医師は「まかせなさい」と言うのでしょうか。

先日、私は白内障の手術を受けましたが、術前に医師も、どの距離に焦点が合うような眼内レンズを入れてほしいかを聞きませんでしたし、私も言いそびれたのです。自分で体験してみるとこんな簡単なことが現実にはかなり難しいことだということがよくわかりました。

はっきり物を言わないのは患者側にも一端の責任があると思います。診療記録開示を迫る前に、対等の立場で医療者に対して自分の症状や希望をはっきり言うことが必要でしょう。系統立っていない病状説明のあげくに「先生よろしくお願いします」では、科学の最先端の医療の現場で昔ながらの弱者(患者)と強者(医療者)の関係から一歩も前進しないのです。そして病気になって医療者にかかるときは、ハイジャックならぬメディカルジャックされたような状態になってしまうのです。

診療記録にきちんと書かれるように、われわれ患者や家族は必要にして充分な情報を、簡潔な言葉で医療者に伝えましょう。

そして、その前に、それを正しく受けとめてくれる医療者を選ぶことが、すべての始まりではないでしょうか。

診療記録開示を迫らなければならないような事態はすでに手遅れなのです。

 

誰が一番 ワタシのことを考えてくれるのかしら

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by Horiuchi

 

LPC発行の参考書

 

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