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Seminar

3月のセミナーから

POS学会に参加して

―医療ボランティアの目から見た診療記録開示問題―

 

診療記録開示では手遅れ?

ピースハウスボランティア 鈴木千介

 

私は今ピースハウスホスピスでボランティアとして働いています。開院以来ですから、もう7年目になります。

妻を10年前に肺がんで亡くしましたが、その時のK病院では、ホスピス病棟こそありませんでしたが、ホスピス病室と言っていい程の心のこもったケアを受けました。私のボランティア活動はそのご恩返しと思っています。

 

POS学会とは

さて、過日、横浜で日本POS学会(会頭:日野原重明先生)の第22回大会が開かれました。この学会は1979年に「POS研究会」として発足し、わが国における患者中心の医療のあり方を研究・開発ならびに実践普及することを目的に活動を続けてきたものです。

POSとは一言で言えば、合理的なカルテの書き方と言っていいでしょう(POS=Problem Oriented System:患者のかかえている問題に焦点をあてたカルテの書き方)。

今回のメインテーマは「診療記録開示時代のPOS」でしたが、これはそのまま「診療記録開示時代のカルテ」と言いかえてもいいと思います。この学会に私は患者の家族という立場で参加し、フォーラムでの短いプレゼンテーションとワークショップ「積極的に医療に参加するために(市民・患者グループ)」で皆さんとの討議の機会をもつことができました。

 

患者はカルテ開示を望んでいるか

いま、患者が自分の診療記録を手に入れる「カルテ開示」の動きが進もうとしています。

カルテを全面開示しているある病院での外科病棟入院患者を対象とした調査では、カルテ開示はがん患者の86%、良性腫瘍患者の93%が賛成し、カルテを見なければよかったと答えた人はそれぞれ3.3%、1.8%であったという報告があります。「客観的な事実を書き、患者の知りたいことに答えることによって、患者が診療の『対象』から『主体』に変わってきた。医療情報は患者のものなのだから、開示するのはあたり前です」という医師の発言もありますが、また別の調査では「診療情報は患者本人だけに開示すべき」が数パーセント(一般/患者、医師、看護婦等立場によって異なるがいずれも一桁)という結果もあるのです。

 

開示目的を考える

そもそも診療記録開示の目的は何でしょうか。それは現実的に考えると医療者、患者、家族によってそれぞれ微妙に異なるのではないでしょうか。そしてその一部だけが重なっていると言えましょう。

開示といっても単にみせるだけではなく、説明があり、相談し、結論を出さなければならないわけですから、上記の三者の共通の目的、領域でのみ取り扱われないとかえって問題を複雑にするだけではないかと思います。

言うまでもなく、三者の共通の目的とは、患者さんにとって最善の決定を行うことですが、これとて患者さんの価値観、人生観がはっきりしない限り何が最善かの考えようもないのです。

すなわち患者さんの価値観、人生観、あるいは場合によっては死生観を患者、医療者、家族が共通の理解として確認し、その上でいまおかれている状況からどちらの方向に進んだらいいかを考えることになるのではないでしょうか。

 

まず病と主体的につきあうことから

診療記録には患者がいまおかれている医学的な状況について詳しく書かれているでしょう。あるいはもう少し広く社会的、精神的(および霊的)な状況についても書かれているかもしれません。

 

 

 

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