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そのことが、合併症の発症を遅らせる、あるいは軽微にすることを信じて、これからもインシュリンの自己注射を続けていくことになります。

「人生ハ百年ニ満タズ、常に千歳ノ憂ヲ抱ク」とはある漢詩の一節ですが、まさしく、いくつかの幸運が重なって、ようやく100年の生命を全うすることができるものです。大半は70年から80年が限度、100年の生命を2つに分け、ファースト・フィフティーを終えた私は、セカンド・フィフティーがあと何年、何十年あるかはわかりませんが、ファーストとは少し違った生活を過ごしてもよいのではと思っています。そのきっかけに、インシュリンの自己注射1日4回という1つのこだわりの対象を見つけ出せたと思っています。

1日4回の注射というのは、終日家にいる場合なら別に何ということはありませんが、仕事や外出などの場合、結構面倒なことです。注射をする場所を確保すること、タイミングを失わないこと、また善意の第三者への配慮などです。この不都合、不便さに敢えてこだわりをもっていこうと思います。

近い将来、経口投与のインシュリン代替薬が出るかもしれません。またヒト・ゲノムの90%が解読され、遺伝子治療も夢ではないかもしれません。私の場合、インシュリン非依存型だと思います。ですから、過去の一定期間の生活習慣のいろいろな環境因子が、インシュリン産生細胞のDNAの機能、作用を異常たらしめたのでしょう。遺伝子の突然変異をもたらしたとすれば、何がどのように影響を及ぼしたのか。元には戻らないのか。今、私のインシュリン産生細胞はどのようなかたちで生きているのか、など知的な興味はつきません。

この2月9日から所用でスペイン、イタリア、ドイツへ出張が控えています。インシュリン注射を始めてから、最初の機会です。往復11日間、いろいろな小道具を持参していかなければなりません。頭の中でいろいろシミュレーションして、不手際が生じないよう備えなければなりません。でも期待もし、楽しみにしています。この程度のことに影響されてはならないからです。それは、インシュリン注射が出張に影響されても、出張がインシュリン注射に影響されても、私のセカンド・フィフティを生きる上であってはならないと思うからです。

これからもリラックスしてこだわり続けていきたいと思います。

 

コメント

浅田さんの教育入院後の第一声は「もっと早くインシュリン注射にすればよかった」というものでした。最近は罹病期間が長くなり、内服薬だけでは血糖コントロールが思わしくないと悩んでいる方に、この言葉を聞かせたいと思いました。今は空腹血糖値は200mg/dlから110mg/dl、グリコヘモグロビンAlcは10%から6%台へと改善し、良好なコントロールを維持しています。会社の中でも自然に注射をしているようです。食事記録も、面倒な食事計算をして書かれてあり、その真剣な態度には驚きました。

血糖コントロールの改善は、本人の努力の成果です。この生活を続けていれば、糖尿病の合併症の不安も解消し、QOLを高めた生活が続けられることでしょう。

浅田さんに「注射は痛くないの」と聞いても「たいしたことはないよ」と、少しも悲壮感は感じられません。海外出張へも、注射セットをカバンに詰め、元気で出かけて行かれました。

ここまで積極的にインシュリン注射を受け入れられたのは、「あなたインシュリン注射にしましょうよ」と励ましてくれたご家族の支えも大きいと思います。そして何よりも本人の意志、生き方の選択です。

医師からインシュリン注射をすすめられ思案している方にも、浅田さんの選択は大きな希望となることでしょう。

LPクリニック栄養士 寄崎靖子

 

 

 

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