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こういう問題は病院側と診療所側にどのような人がいるか、人と人との関係によって進展するかどうかが大きく左右されると思います。私たちの地域で大きな転機を迎えたのは、私の同級生が院長と副院長に就任し、お互いの立場でフランクに話し合える状況が生まれ、さらに病院の移転・新築問題で私たちの医師会との間で議論が交わされるようになったためでした。この交渉の中で、病院の諸検査のオープン化や患者の外来受診と入院に関するさまざまな面での前向きな協定が取り交わされました。その結果、病院には“病診連携室”が設けられ、専属の職員が配属されて、紹介患者の受診・入院後の経過についても情報がフィードバックされるようになりました。

医師会では、私の入会する以前から卒業教育の一貫として、大学から講師を招いたり、K病院をはじめ近隣の病院の先生による最新の医学の講演会を毎月開催していました。この他に15年程前から胸部レントゲン写真読影会をK病院の呼吸器科グループの協力を得て毎月行うようになり、医師会会員が診療上診断に困っている症例の検討やその時期に流行している疾患(例えばマイコプラズマ肺炎)の提示と有効な治療法の情報交換を行うようになりました。また病院からは肺癌をはじめ、内視鏡や手術の行われた症例、剖検になったケース等の提示をしていただき、診断のための諸検査とか治療経過を学んでいます。それと同時に医師会会員から病院に紹介された全患者の診断結果も報告されています。数多くのいろいろな症例について学ぶことは、小さな診療所で症例に限りのある内科医師にとって、日常診療を自信を持って行うことに大変役立っています。この会にはレントゲン技師も参加しており、撮影条件の助言をしていただき、会員の写真の出来が向上してきました。これと併せて、胃レントゲン写真のダブルチェックも行っていますが、読影能力の向上は勿論のこと、副産物として撮影方法の改良、バリウムの種類と濃度等の研究の効果もあらわれて、最近では読影に耐えないような写真は見られなくなってきました。開業医は自分一人高いレベルであれば良いという考えの人もあり、「先生は競争相手の実力を向上させるようなことをよくやれるな」と私の努力を不思議がる同僚もいますが、全体のレベルがある程度以上でないと開業医にかかることに不安感を持たせることとなり、開業医からの患者離れの原因の一つにもなると考えます。私のような発想に批判もなくはないのですが、日常の地道な努力しか私たちが生き延びる道は開けないと思うのです。

数年前になりますが、若い人たちの中に新しい動きがありました。ほぼ時を同じくして消化器病研究会と骨関節レントゲン写真読影会が自発的に誕生し、市内の二つの病院の先生たちの協力も頂いて、順調に参加者を増やしています。こういう会は病院の先生方との人的つながりが出来て、患者紹介や検査依頼をスムーズにしています。

 

将来への展望 −結びにかえて−

「開業医は生き延びれるのか、病院はどうなのか。」

よく問われる質問でもあります。私の心の根底に流れる思いは、「まじめにやっていれば生き延びられるでしょう」という極めて楽天的な展望です。

開業医の中にはグループ診療に活路を求める意見もあります。確かにいろいろの利点があり意義を見出さないわけではありませんが、グループの環の中に患者の囲い込みをするようになったり、グループの年齢が上がるに従って消極的になりやすいといったあたりに課題を残しているように思います。

私たちのような地方で、病院と開業医とが患者に満足感を与える方法をお互いに模索していく時にたどり着く医療は、それぞれの所での完結型の医療ではなく、両者がお互いに補完しあうものになるのではないでしょうか。病院は高額医療器械をはじめ諸検査施設を周辺医療機関に開放し、患者の双方向性の紹介と紹介患者の情報交換を図ることによって、地域の医療機関と密接なパイプで結ばれ、本来病院が担当すべき患者の紹介を得て、必要な外来数と入院患者数を確保できるようになるでしょう。そうすれば外来重視型の病院経営から開放されるように思いますし、地域の医療機関との摩擦も解消され、共存共栄の道が開けるのではないでしょうか。

 

 

 

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