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地域医療と福祉のトピックス その31

 

地域医療事始

安城市医師会会長 鳥居勇夫

 

はじめに

いち開業医として、また医師会役員として20余年の歩みの中で共に考えたり行動してきたことを、地域医療に的をしぼってまとめてみました。

 

安城市の概要

話の都合上、私の住んでいる安城市の紹介をすることにいたします。

安城市は名古屋から30kmほど東京寄りに位置し、かつては“日本のデンマーク”といわれ、日本の近代農業を代表する農村でした。しかし市当局の話では、現在は農業と工業のバランスがとれたトヨタ自動車の関連工場がひろがる町となりました。新幹線の駅が出来て人口の流入もあり、現在は人口15.6万人で65歳以上の比率は愛知県の平均より低く11%です。

医療環境については、病院5、有床診療所3、無床診療所55で、数字の上では人口に対して医療機関の数が少ない地域ですが、後でも述べますように病院の一つが60年の歴史を持つ700床の厚生連のK総合病院で、この地区の医療には絶大な影響力を持っています。老人福祉の関係では、特別養護老人ホームと老健施設がそれぞれ1ヵ所ずつあります。

医師会は安城市単独で構成され、A会員数63名(平均年齢は約56歳)、B会員数約55名で、市内で働いている医師の数は病院で働く若い医師も含めて約200名です。

 

勤務医と開業医の間

もう20年以上も前のことになりますが、K総合病院に勤務した後、地元に無床診療所を開院いたしました。開業した当初は戸惑うことがずいぶん多くありました。戸惑うというよりは、自分が何も知らないということを、嫌というほど知らされたのです。

まず、医学に関することから述べてみましょう。内科医としての訓練をして開業したわけですが、病院で診るのと開業医として最前線で診るのとは患者の症状がいろいろの点で違うのです。例えば、病気は発症直後と数日ないし1週間経過しているのとでは、症状にも検査成績にも差があるのです。開業医が発症間もなく診る時点と後日病院の医師が診る時点では、当然のことですが症状のステージが異なっていることを念頭におかなければなりません。

また、技術や器械に差があります。勤務医の頃は、開業医からの紹介患者に付けられている胸部や胃のレントゲン写真をみて、もう少し良い写真が撮れないものかと嘆息したものですが、いざ開業してみますと、うまく撮れない色々の事情が分かってきて複雑な思いにかられます。

 

病院との連携について

今では病院と診療所の連携は地域医療の要としての位置を占めていますが、25年前には私たちの地域ではそうでもありませんでした。病院は重症患者や診断困難な患者を紹介するところで、患者の逆紹介はほとんどありませんでした。病院との症例検討会のようなものもありません。当時唯一開業医にも開放されていたのは臨床病理検討会で、この会にはわれわれの母校の病理の教授も参加されていました。

開業して困ったことの一つに、自分の所では行えない検査などがある時でした。例えば病院に胃カメラを依頼する場合には、患者が内科外来で一度受診して検査日を予約し、検査後もう一度結果を聞くために受診することが必要でした。もっとも、当時はこのようなことは、当然のことのように思われていましたが、患者にとっては大変な負担でしたし、結果が出るまでにかなりの時間がかかったものでした。

 

 

 

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