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それから、社会心理的要因とは、たとえばその日法事があったとか、旅行に出かけたというようなふだんの生活パターンとは違うエピソードが関係することが多い。「その日から家に庭師が入った」というケースがありました。自分の居室の前を見知らぬ人が行ったり来たりする、その日から夜間せん妄を呈しました。

このように非日常的な事態にもろいのです。人間関係が原因になると本には書いてありますが、嫁−姑関係がせん妄の原因になることはまずありません。何年も前から仲が悪いことで、急にせん妄を生じたりはしないのです。それにプラス何か―たとえば嫁の親が来たときに、自分に対するのとは別人のように優しいと思った―というようなことがあったときなのです。ですから、その日の生活を丹念に聞いていくことが大切で、そうすると普段ないエピソードが出てくる。それがせん妄に関係していることが多いのです。

このように、せん妄は原因を把握できることが多く、薬や生活環境の変化によるとわかれば対策が立てられる。それから、せん妄に対する治療も最近はうまくできるようになりました。たとえば白内障の手術や簡単な手術によるせん妄状態は、せん妄が起きるということを予測して態勢を組んでおけば、周囲がうろたえない限りはせん妄状態は1週間で落ち着いてきます。ところが周囲がうろたえて、縛ったり、せん妄には禁忌の睡眠剤を飲ませたりすると、どんどん悪くなります。せん妄に対する対応をきちんと心得ていれば、薬を使わないでも落ち着いてくるのが大半です。

せん妄について認識できると、次にお話しする“夕方症候群”についても理解は容易です。

 

 

 

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