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訓練と援助

ここに痴呆の介護をしている人に共通してみられる問題が含まれています。それは発達段階の子どもに対する訓練を高齢者や痴呆にそのまま当てはめていることです。子どもは、「できないこと」が「できる」ようになっていく。だから訓練が必要です。ところが高齢者や痴呆の人は、「できていたこと」が「できなくなる」。それに必要なのは訓練ではなく、援助、サポートです。脳梗塞のリハビリテーションは、歩けなくなった人の機能が戻るという点で意味があります。そうでない人に対しては何が必要かといえば車椅子や杖なのです。この違いの認識がないためには、いろいろな現場で誤った取り組みがなされ、高齢者に大きな負担をかけているだけでなく、介護する人たちにも無駄なエネルギーと時間を浪費させています。発達がいいことだという考えが強く支配していて、衰えという現実をわれわれはなかなか受容できない。しかし衰えに対して援助するのは決して悪いことではなく、その人らしく生きていくためには必要なのです。

歩けなくなった人が車椅子を使うことで、好きな芝居を見に行くことができるというようなその人らしい生活は、援助によって成り立つわけです。高齢社会では高齢者に自立を求めるだけでなく、障害ある人がその人らしく生きるという自律を支える援助システムこそ必要なのです。

このケースの場合は、弄便については何もコメントできなかったのですが、着替えについてはいまの話、つまり援助とは順番に着替えの衣類を渡すようなことだと説明して初診は終わりました。次の週に娘さんが話したことはとても印象的でした。順番に衣類を渡したところ5分で終わった、どんどん着ていくのでびっくりした、と。

これはカタストロフ(破局反応)が消えたことを物語っています。

 

 

 

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