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アルツハイマー病の記憶障害

一つは記憶障害です。近時記憶という比較的新しい記憶、ここ1日か2日のことについても、アルツハイマー病と、血管性痴呆や老化現象は違いがあります。その日あった電話や来客という具体的なエピソードでは、アルツハイマー病の人も、電話をとって大体普通に会話ができ、用件もそれなりにそつなくこなすことができます。それは一見、痴呆がないかのごとくで、相手はほとんど気がつかないことが多い。痴呆があってもその場の会話はきちんとできるのは、アルツハイマー病の一つの特徴でもあります。

問題はそのあとにあります。電話があったことを忘れているのは、アルツハイマー病でもその他の痴呆性疾患でも共通しているのですが、家族が昼間電話があったことを知って、本人にそのことを確認すると、一般的な老化や血管性痴呆の方は、「ああ、そういえば」と思い出します。きっかけがあれば回想できます。それに対してアルツハイマー病の人は電話や来客があったことそのものを忘れています。とりつくろっていろいろと弁解することもありますが、実はすっぽり忘れています。

また、長期記憶も、アルツハイマー病の人には島状にしか残っていません。長期記憶のなかで何年も前のことや、数十年も前のできごとの記憶をエピソード記憶といいます。若いときにはどこに住んでいたとか、小学生のときリレーで優勝したことを覚えているというのはエピソード記憶です。

たとえば、あるアルツハイマー病の方は、戦争中の話を尋ねると、自分がいた部隊の任務や部隊長の名前、そして上官は誰で、自分はどういう仕事をしていたのかを非常に詳しく語る。

 

 

 

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