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痴呆をどうとらえるか

 

実際に痴呆の高齢者は、高度の人であれば相対していればすぐにわかります。ところが、その場面場面での対応とか会話では、どこまでが痴呆なのか、あるいは本当に痴呆なのかよくわからないということがしばしばあります。このようにまだまだ痴呆についての理解が浅く、それがさまざまな誤解を生んでいる原因と思われます。

 

1) 欠落と保持

視空間失認

視空間失認というのは、神経心理学的症状の一つですが、この症状を、私が「今日はもう診察が終わったから、自分の部屋へ帰って下さい」と患者さんに告げたときの行動でみてみることにします。たいていの人は初めての部屋であっても、窓がこちら側にある、ロッカーや机はどこにあるというような配置を見て、出入り口がどこにあるかというおおよその見当をつけて、出ていけます。

ところが視空間失認のある人では、ロッカーを開けて、「ここではない」とか、戸棚の中に入ろうとして、「これは無理だ」、窓を開けて外をのぞいて「ここからは出られない」というような行動をします。これはどういう問題かといいますと、窓やロッカーなど個々のものについての認知はきちんとできるのに、ものの相互の関係や意味がわからなくなるという特異な症状です。

老人ホームなどでこのような症状の患者さんがいるとすぐにわかります。部屋の前に大きな名前の書いた模造紙が貼ってあるとか、あるいは花のマークのついているところに名前が書いてあるというような光景がそれです。

 

 

 

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