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自分が存在していることを感ずるのはほとんど健康でない人だけだ。健康な人は、哲学者でさえも、生命とは何かを探求するよりも、生を享楽することに没頭する。それらの人達は自分が存在していることに驚くことはほとんどない。健康は我々を我々の外の事物に連れゆき、病気は我々を我々のなかに連れ出す」(『日記−1792-1817年』)といっています。

私たちは、生きていることが当たり前だと思い、または生かされていることに気がつかないでいるのです。

プラトンは、「人間はある年齢になったら内なるものに返りなさい」といっています。病気になって、初めて人間はものごとをきちんと考えるようになるのですが、しかし、痛いとか苦しいときにはなかなかじっくり考えられません。そういうときに対症療法を行って苦しみを和めるのが、ホスピス・緩和ケアの大事な医療行為なのです。それと同時に、その人の壊れていく器の中の水を手で掬いあげるような支えをしなければならないのです。そしてその人のもっている免疫力が最高度に発揮されるように手を当てなければなりません。患者さんの側にいて、こころを添えて、共にあるということこそが、ケアの本質であり、医療の本質でもあるのです。不幸にしてその患者さんは亡くなられても、その方は癒されたと私たちは考えることが許されるのです。キュアは死から救うことです。しかし、ケアは死んでもそこに生き延びている魂なのです。ケアは敗北には終わりません。その人が本当に生きるために必要な行為であるケアは、もっと医療人が大切に取り組まなければならないものだと思います。

 

 

 

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