第1章 事業の概要
1.1 事業の目的
地球温暖化を精度よく予測するためには、気候変動のメカニズムについて科学的に不確実な部分をより少なくしていくための調査研究が喫緊の課題である。
これまでの様々な観測や研究の結果によれば、地球温暖化に対して、海洋が大気・海洋間の温室効果ガスの収支に大きな役割を占めることが明らかにされている。そこで、地球温暖化ならびにそれに伴って将来起こるであろう様々な現象の予測を精度よく行うためには、大気と海洋の温室効果ガス、特に二酸化炭素の分布や動態を解明することが重要となっている。
しかしながら、かぎられた海洋観測船だけでは、時空間的に多くの観測を実施することは容易ではない。全海洋はもとより、先進工業国の大部分が集中する北半球に大きな面積を占める北太平洋においても、観測データの得られている海域および季節は限られているのが現状であり、大気中の温室効果ガス濃度に及ぼす海洋の役割を十分に解明するには至っていない。
この観測空白海域である北太平洋の日本から米国西岸までの海域について、全季節を通じて長年にわたる観測値を積み重ねていくことが焦眉の課題である。
これらの課題を解消するためには、観測船に比べ観測費用の面で有利な一般商船による観測を普及させることが有効であり、本事業は以下の2点を目的に取組んだ。
1)一般商船搭載用の二酸化炭素観測システムの開発
観測船と同等の分析精度を確保し、海洋観測の専門家でなくとも操作が容易に行えるような連続観測システムを開発する。
2)北太平洋域の二酸化炭素濃度の連続観測
本観測システムを一般商船に搭載し、得られた連続観測データの解析により、大気・海洋における二酸化炭素濃度の分布や季節変動などを明らかにし、地球環境問題に関する科学的知見の進展に資する。
なお、海洋観測船との比較でみた、一般商船を使用した際の利点としては、次のようなものが挙げられる。
1)一般商船は観測船では実現できていない速い船速(一般的に、観測船では約10ノットに対し、コンテナ船では約20ノット以上)がでることにより、広範囲な海域を短期間で航行可能であり、極力同一時期のデータが広範囲に取得できる。
2)外航コンテナ船などの一般商船は、観測船と比べて、船体が大きいため海況、季節、天候に左右されることが少なく、観測船では取得しにくい気象海象時のデータを取得できる。