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はじめに

 

船舶の海難により、乗員の船舶上での安全確保が困難となったとき、海上の人命を確保する最後の防護ラインとして、救命設備は使用される。即ち、乗員は、救命艇、またはシューターといかだで海上に脱出し、救助を待つ。

特に、外洋を航海中の旅客船から、荒れた海上に退船せざるをえない事態に陥ちいった場合には、多くの乗員をより安全且つ迅速に避難させる必要がある。それには、船舶からシューターで脱出し、海上のいかだに移乗し、他船等からの救助を待つ、シューターといかだが一体となった海上退船システム(以下MESという)が有効である。

風、波のある荒天実試験海域でMESの有効性を実証するには、船舶、MES、多くの試験要員に加えて、試験時のアクシデントに対応できる安全上の配慮が必要である。また、荒天試験海域を確保するには、一般船舶の航行安全等を考慮する必要があり、試験に利用できる範囲も制限される。また、試験日は、試験時の風波(シーステート)の状態を高確度で予想できる試験実施1、2日前になって、初めて決定される。このように多くの制約があるため、「退船システム」の荒天時性能を調査する実船試験はいままで実施されたことがない。

1996年6月、SOLAS条約の改正により、RORO旅客船にMESの積付け、さらに、その後、MESの荒天時性能確認、が義務づけられ、国内でもIMO基準に適合するMESの荒天時性能確認試験の実施が急務となった。

試験実施に際しては、多くのトラブルが発生することが予想される。しかし、試験実施に際して、安全・保全面等において関係者からの全面的協力が得られる見通しをえたので、「退船システム」の荒天時性能を確認する、国内初の実船試験を実施することにした。

 

 

 

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