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すでに社会経済の構造は脱工(産)業化から知識・情報化へ変革を遂げ、工業化時代に育った公務員制度の改革が、各国共に不可避であるという認識に立脚したものであった。同時にそれは、19世紀後半から20世紀前半にかけて、先進諸国に拡散した西欧型公務員制度に対する新しいチャレンジでもあった。こうして1980年代に登場したのが、「新しい行政管理」(New Public Management: NPM)だった。

NPMに関しては、このところ多数の研究成果が発表されているものの、人事行政に関しては、おおむね次のようなコンセプトのものと考える。まずは、経営資源使用の裁量の幅を広げる代りに、業績・成果による厳格な統制を行う。ついで、民間における市場メカニズムを可能なかぎり活用する。さらに、国(住)民を顧客とみてサービスを提供する。そのうえで、組織のヒエラルキー構造を思い切って簡素化しようとする。こうした枠組みによって、「小さな政府」を実現し、行政部門の効率化・活性化を図ろうとするわけである。このNPMの典型的な実例は、1980年代初めに登場したアメリカのレーガノミックスと、イギリスのサッチャリズムであろう。

今回の調査研究は、こうした時代の背景を念頭に置き、同時に国際比較を加えることにより、できるだけ具体的に「顔の見える公務員像」を描こうと意図したのであった。

 

II 調査研究結果のポイント

 

今回の国際比較による調査研究は、このところわが国に続出した高級公務員の不祥事によって刺激されたことは確かである。そのために、専ら国家公務員を対象とした次第であった。そこで調査研究のポイントとして、まずは国家公務員の特性から述べることにしたい。

 

1 国家公務員の位置付け

 

先進6ヵ国の「公務員」の位置付けは、さほど大きな違いはないようである。すなわち、表現の違いこそあれ、巨視的に「全体の奉仕者」という点で大差は無い。しかし、こと「国家公務員」となると、二つの大きな潮流に分かれる。すなわち、アングロサクソン系諸国とその強い影響を受けた諸国―アメリカ、イギリス、カナダ、日本―では、たとえばイギリスで公務員は「国庫から給与を支給されるもの」と定義されているように、地方行政の担当者は除外されている。他方、ヨーロッパ大陸系諸国―ドイツ、フランス―では、ドイツの官吏(Beamte)のように、連邦政府であれ、各州などの地方政府であれ、勤務組織の如何を問わず、官吏は同じ身分を享受する。今回の調査研究においては、この点に注意を払い、調査の規模と能力とを考え、専ら国家公務員を対象にしたわけである。

 

 

 

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