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官民合同の調査とはいえ、民間企業に配布した調査票は、住所不明などの理由により約10%の配布不能があったものの、最終的に回収率は9.2%で、この国としては高い数値であったという。また回答世帯の50%近くが、鯛査結果の要約を求めたことも、市民の関心の深さを物語るとされている。(注7)

第2の特色は、調査の内容が実に具体的であり、かつ単に公務側の目線からではなく、民間人の目線で官民業務を総合評価している点である。論より証拠として、質的評価比較内容の一例を示せば、比較の発想についてわが国とかなりな違いがあることが、一見して分かるはずである。(注8)

第3の特色は、公務は市民のためにある、という哲学の存在である。隣国アメリカ同様に、この国はまずは地域社会(コミュニティー)から興った新しい混合文化の国だけに、市民の公務に対する期待や要望は複雑である。一見して面倒な「市民第一」の調査が行われたのは、こうした社会的基盤があったからに違いない。ちなみにカナダにおけるこの調査を参考にしたわが国の「国内版調査票」を使った調査結果は、この報告書の「日本編」に出ているので、ぜひ比較して欲しい次第である。

 

2 見事なNPMの成果

 

20世紀最後の4半世紀には、先進各国ともに社会的な保障と福祉の拡充に起因する深刻な財政難に逢着し、第2次世界大戦後の合言葉であった「福祉(行政)国家建設」指向の見直しを迫られるようになった。そこで公務においては、年金・保健制度、雇用・定年制度の見直しなど、マックス・ウェーバー型の官僚制の特色に大きな楔が打ち込まれた。その結果、プロシャ以来の伝統的な恩給・保健制度を最後まで墨守し、官吏の個人負担を免除してきたドイツですら、1997年の「公務員法改革法」の施行により、小額ながら官吏に掛け金の負担を求めることになったほどである。

1995年当時、カナダ連邦政府は約430億カナダドルの累積財政赤字を抱え、なんとGDPの75%にも達していた。当時たまたまアルバータ州のバンフ研修センターを訪ねていた筆者に、ドン・シンプソン次長兼行政学担当教授は、"トリプルi"(International Institute for Innovation)による財政再建が現下の緊急課題だと、何度も強調したことを思い出す。ところがあれから僅か5年足らずの短期間に、見事に財政不足を克服しただけではない。2000年度には逆に黒字化する見込みだという。

この見事な実績は、次のようなごく当たり前のことを、着実に実行したからだったのである。

対策の第1は、行政で扱う事業の取捨選択であった。そのために自由党クレティエン首相の下で、政治主導によってプログラム・レビュー(事業の見直し)を行った。行政は国(住)民の要望を重視するとはいえ、民間には任せられない事業の優先順位(priority)を定め、運営の過程を包み隠さず国(住)民に公表する。いわゆる透明化である。

 

 

 

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