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この一文が示す通り、梅岩が重要視した商売における誠実さという考え方が稲盛氏の場合にはさらに拡大され、まず最初にすべての社員に、次には顧客や取引先、そして最後には社会全体に対して公明正大であり、責任を全うすることをも含んでいます。会社を興してからまだ二年しか経っていないとき、社員たちが将来の保証を稲盛氏に要求してきたことがあり、稲盛氏はショックを受けたそうです。このときの様子を稲盛氏は次のように書いています。

 

私は「企業とは何か」ということについて真剣に考えざるを得ませんでした。その頃の私は他人の将来の生計を保証するどころか、自分の家族の生活の保証すらできない状態でした。それでも従業員たちは、自分たちや家族の将来を会社に委ねていたのです。一生の生活を会社にかけている従業員たちの期待を裏切ることはできません。彼らとの三日三晩の熱のこもった話し合いの末、私は京セラの経営方針を変えることにしました。自分の技術を世に問うことよりも、従業員の生活を優先することにしたのです。

そして京セラの経営理念を、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」と定めたのです。(太字体は原文のまま。『成功への情熱』より)

 

 

 

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