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ベラー氏は、十七世紀における鎖国政策や、正統派の教義の制定について述べ、幕府の強い抑圧を受けなかったことが心学発展を促したと解説した。さらに、二つの研究報告についての私見を述べ、日本の伝統的文化や心学が、近代社会の抱える試練を乗り切る力となり得るのかどうかが大きな課題であると締めくくった。

 

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向って左から3人目がベラー氏、1人おいて小嶋秀夫氏と川田耕氏

 

引き続き、二人の報告者よりベラー氏への質問があった。まず川田氏が、心学における普遍主義について説明を求めた。ベラー氏がそれに答え、梅岩の思想に見られる普遍主義と特殊主義についてコメントした。

小嶋氏は、心学が来世についてどのような解釈をしているのかという説明を、ベラー氏に求めた。ベラー氏は、あくまで推察に過ぎないとしながら、心学において祖先崇拝は常識的なこととして捕らえられていたので、あえて説明をしなかったのではと答えた。

予定討論を終え、ついで一般討論に移ると、報告者側から聴講者側にマイクが移動し、聴講者からベラー氏に対して質問が投げかけられた。

まず、江戸時代における個人の尊厳という観念についての質問があり、ヒューマニティという意味での個人の尊厳はあったが、権利としてはなかったとベラー氏は指摘した。つぎに、日本の経済発展に対して心学が果たした機能とは何かというもの。心学も含め、個人の自発性を重んじる宗教文化が、日本の近代化に大きくプラスに働いたとベラー氏は述べた。

その他、質問がいくつか出されたが、紙幅の都合によりすべてを紹介できないのが残念である。しかし、ベラー氏のユーモアあふれる解説は、時折り聴講者の笑いを誘い、なごやかな雰囲気の中で午後五時過ぎに討論は終了した。最後に、同大学総合研究所所長の内山隆夫氏が、今後も継続してこうしたワークショップを開催していきたいとあいさつし、会の最後を締めくくった。

(記・松田有加)

 

 

 

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