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石田という姓の知り合いは三人ほどありましたが、そのとき、全身が金縛りみたいになったんですね。直感的に、あの石田梅岩の石田さんやと思いました。玄関を開けたらまさに、亀岡の梅岩の生家・石田家の当主の石田二郎さんが立っておられたのです。家には梅岩先生の著書『都鄙問答』の初版本があり、親から"大事にせよ"といわれていましたが、日ごろは頭に全然ないのに、「石田梅岩だ」と思ったのがまず不思議ですね。それから十数年になりますが、毎年墓前祭に寄せてもらっています。

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二七〇年前に、梅岩先生が「人の人たるべき生きる道」を分かりやすく、自らが生きる姿勢で示されたということの素晴らしさ。そうした歴史を、多くの方々が地元の誇りとして振り返り、石門心学を学ぶ場としてこの心学講舎が設けられているのは、非常に幸せなことだと思います。昨今、多くの由々しい事件が起こっていますが、これはまさに秩序の崩壊、家庭や学級、学校の崩壊であります。また、各界の信頼も失われています。このような大変厳しい時代だからこそ、梅岩先生の精神に立ち返り、日本人の誇り、自らの生きる土地にある歴史、先人が歩んで来たその日々の研鑽や精進を、今一度思い起こしたい。梅岩先生の精神を活用することが、国家を再建する一番の近道ではないかという気がします。賢者は歴史から学ぶといいますが、歴史を振り返るとともに、自分が次の世代に何を伝えることができるか、そのことが問われているような気がします。

谷口 皆さん、今から二七〇年前を思い起こしてください。今、この場所は亀岡市ではなく、京都車屋町でございます。そして梅岩先生がここで開講されている、こういうことだと思ってください。先生に対するいろいろな考えや、それぞれに取り組まれていることについてお話をうかがいましたが、先生がこのような場所をつくり、当初は一人の聴講者もない中、一人二人と聴講者を増やしながら、熱心に講座を続けられたことを思い起こしました。

それから二七〇年経った今、そうしたことは忘れられ、青少年の犯罪など見るに忍びない状況があります。バブルが崩壊しましたが、その夢がいつまでも忘れられないといったような経済的な問題もあります。そんな状況の中で、石門心学を見直し、それぞれが先頭に立って先生の教えを実践しておられることを、非常に有り難いと思います。

亀岡市は昭和六十二年に生涯学習都市宣言をしまして、それから十年、その中心になる施設をつくろうということで、「ガレリアかめおか」を建てました。その中心がこの心学講舎です。『都鄙問答』に至る梅岩の教えを勉強してもらう、また単に石門心学ということではなく今の時代に生きる一人一人に人が人たる道を尽くせているのかということを自覚し、反省する拠点にしていただけたらという思いから、この場所は作られました。

 

 

 

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