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土地の認識は、そこに生育または生息する生物とも深いつながりがある。たとえば沢の水があってサワガニがたくさん獲れる場所はカニヤマ(瑞穂町)である。ただし、この場合は特定の場所をさすというよりは目的に適った場所であればどこでもカニヤマとなる。類似した事例にマツヤマ(アカマツの多い林)、ナラヤマ(コナラの多い林)等がある。

(2)地名からみた里山の自然

狭山丘陵にのこされた地名を概観すると、自然環境に由来するのではないかと推察されるものが少なくない。現在の地名には「あて字」が多く、本来の意味が変化しているケースもあるので注意を要するが、既存資料を中心に項目別に整理しておきたい。

1] 植物と地名

・桜:現在の狭山丘陵にはヤマザクラが多いが、地名に由来する桜がどのような桜であったかはよく分からない。瑞穂町には「桜株(サクラッカブ)」、「桜木(サクラギ)」等があり、所沢市にも「桜淵(サクラブチ)」という地名がある。

・榎:オオムラサキやゴマダラチョウの食草としてよく知られたエノキも、狭山丘陵では一般的な樹木のひとつである。地名に登場する榎は、特定の場所に植栽されたものが多いようで、たとえば所沢市山口の「シメ榎」について、シメが「標」で境木を意味するとすれば、村境の榎ではないかと考察している(所沢市史編さん委員会『所沢市史、地誌』、1980)。そのように考えると、同じ所沢市の「榎戸」や瑞穂町石畑の「二本榎」、武蔵村山市の「三本榎」も同じように境木として植栽された場所のことではないかとおもわれる。

・松:狭山丘陵で松といえばアカマツのことである。マツヤマが特定の地名ではなく、アカマツが多く生育する植生環境を総称した呼称であったことは前述のとおりである。地名では瑞穂町に「松ノソト」、所沢市に「松之木沢」と「五郎松」等がのこされている。五郎松は昭和48年ころまで旧勝楽寺村内に存在していた古木の松で寛永年間に植栽されたクロマツと伝えられている(『湖底のふるさと』、1983)。

・茅:萱とも書くが、狭義の意味ではススキを、広義にとるとオギやヨシ、チガヤ等を含めた総称となる所沢市三ヶ島に「葦刈場(アシカリバ)」、「萱戸(カヤト)」が、東大和市清水には「葭原山(ヨシワラヤマ)」という地名がみられるが、これらはかつて入会(共有)の秣場として利用されていたなごりであろうか。葦も葭も同じヨシのことである。

・その他:瑞穂町に「桃ノ木入」、「檜入(ヒノキイリ)」、「シドメ窪」、「シトメ久保」、「グミ久保」、「篠ノ台(シノノダイ)」があり、所沢市には「椿峯」、「菩提樹(ボダイギ)」等がある。シドメあるいはシトメは、この辺りではクサボケの方言として親しまれている。

 

 

 

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