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農家にとって、降雹は台風等とともに最も注意しなければならない気象現象であったようで、例年5月から6月にかけてが発生しやすい季節といわれている。1967年6月に瑞穂町や村山町(現武蔵村山市)を含む北多摩地方で観測された降雹は最大で直径3cmもあり、収穫を間近に控えた麦作に甚大な損害を与えたと記録されている(瑞穂町史編さん委員会、前出)。

なお、9月(二百十日、二百二十日)には台風による風害を防ぐために「風まつり」が各地で行われていた。これも同じ榛名信仰に基づくものであり、神社の札を竹にはさんで畑等に立てたといわれる。

2] お犬さまをめぐる信仰

榛名講と並んでさかんに行われたのが御嶽講である。奥多摩の御嶽神杜の札は「お犬さま」とよばれ、これは狼を表しているといわれる。これを竹の棒にはさみ、杉の葉をかぶせて畑に立て、害虫除けとしていた。そこには「お犬さま」の力を借りて農作物の害虫を駆除しようとする想いがあったものと考えられるが、対照的に人間自身が狼の害を防ごうとする事例もある。

瑞穂町の葬礼風俗のひとつに「オオカミ除け」というのがあり、多摩、入間地方に特有の風習とされている(瑞穂町史編さん委員会、前出)。それによると「狼除けというのは、武蔵野の原に狼が出没して、ある時には神仏の遺体をあらし汚すような事例のあった時代の名残りと思われるが、いまでも秋川地方の墓所に形跡をのこしている。瑞穂でもその例があったがいまではみられなくなった。竹の棒を三、四本組み合せて荒縄で大きな石をつるし、上にはザルをかぶせる。そして刃物(鎌が多い)と竜頭をたてておく。」とある。

瑞穂町の西に位置する青梅市付辺の近世の日記をみると、狼が人を喰うという記述があるので、江戸時代には狭山丘陵周辺でも同じような状況にあったものと推測される。

 

5)狭山丘陵の地名をめぐって

(1)地形に関する認識と呼称

狭山丘陵の地形は主に尾根、斜面、谷の組み合せで成り立っている。このような地形に対する呼称は、ある土地を識別する際の基本的な概念を含んでおり、それが共通認識として定着したのが地名のはじまりであろう。その代表的な例が「ヤツ」あるいは「ヤト」である。これは同地域で谷部の地形を総称する呼称として知られ、具体的にイリノヤツとかオッコシヤツ(武蔵村山市)、セドヤツ(東大和市)、ヤツノタンボ(所沢市)等とよばれる場所がある。さらに、微地形的な要素とみられるものに「クボ」があり、比較的狭くて周辺より低い土地をさしている。

 

 

 

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