3)里山の花ごよみ
(1)調査について
1] 対象区域
丘陵の南側(東京都武蔵村山市および瑞穂町にまたがる宮野入谷戸)で1ヵ所、北側(埼玉県入間市の小ヶ谷戸)で1ヵ所を選定し調査区域とした。いずれも開析谷を中心とする地域で、宮野入は下流域に水田が拓かれ、中流域から上流域にかけてはヨシ、ウキヤガラ、ミゾソバ、カサスゲ等を主体とする湿性草地がみられる。谷戸の両岸は丘陵脚部から尾根部にかけてコナラ林が広がり、一部はアカマツの混交林となっている。
一方、小ヶ谷戸は上流域から下流域まで樹林(コナラ林およびスギ・ヒノキ植林)に覆われ、湿性草地はほとんど成立していない。
2] 調査方法
調査対象とした植物は、前年度の同地域における植生調査で確認された種のリストをもとに、狭山丘陵の代表的な種を加えたものである。これらのうち、木本類については展葉(新葉の展開)、開花、結実の状況を、また草本類については開花と結実の状況について調査を行った。ただし、データを収集するのに適当な標本が見あたらない種は対象から除外したほか、一部の種については対象区域周辺の状況も記録に含めることとした。
なお、調査期間は3月下旬から12月上旬である。
(2)狭山丘陵の花ごよみ
狭山丘陵では、これまでに1,100種余りのシダ植物および種子植物が記録されているが、今回はその約32%にあたる360種について植物季節に関する基本的な情報を収集することができた。植物種によっては丘陵の北側と南側で展葉期および開花期に若干の相違が認められるものもあるが、両区域の記録を合わせて「狭山丘陵の花ごよみ」とする。
1] 木本植物の特性
谷底部から丘陵斜面に生育する91種について、展葉の始まりから完了、開花の始まりから完了、結実の始まりから完了(完熟)までを記録し、これを花ごよみとしてまとめた(資料編:表(資)-I-1)。
展葉は、ウグイスカグラやニワトコ等早い種では3月上旬に始まっているものと考えられるが、全般的には図I-1-5に示すように4月下旬をピークとして、その前後各10日間にほぼいっせいに行われている。始まりが遅いのはネムノキ、ヤブコウジ、テイカカズラなどで、さらにネムノキは完了が6月中旬までかかる最も遅いタイプの種のひとつである。