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もっとも、既存の税の存在を前提にして、住民の負担が過重となるかどうかが判断されるので、その限りにおいて、「早い者勝ち」となることは否定できない。同一の課税標準の税に関する判断は、国税のみならず「他の地方税」との間においてもなされるが、その「地方税」のなかには、法定外税も含まれると解される。したがって、たとえば、ある県が法定外税を課税している場合に、その県内のある市が、同一の課税標準の税を採用しようとすると、1号消極要件との抵触の有無がチェックされることになる。その限りで、法定外税相互間においても「早い者勝ち」の場合が起こることになる。当然のことながら、都道府県と市町村とは対等な関係にあるから、法定外税に関して「都道府県優先原則」が妥当するわけでもない。有力な税源の発見は、この「早い者勝ち」の仕組みのなかで、大きな強みを発揮するであろう。法定外税に関する「早い者勝ち」を放置してよいのかどうか、今後の検討課題となるように思われる。

なお、法の規定を表面的に読むならば、「他の地方税」には、当該地方団体自体の法定の税も含まれ、したがって、当該地方団体の法定税と課税標準を共通にする税も、そのことのみで、法定外税の対象から除外される訳ではないようにみえる。しかしながら、少なくとも制限税率の定めがおかれているような当該地方団体の法定税と重複する法定外税の課税は、法定税に関し法定した趣旨を潜脱するものであって、違法というべきである。それは、1号消極要件との抵触問題というよりは、「地方税法の規律の趣旨」に真向から反することによる結論である。法定外税に関する諸規定には地方団体の課税権限をなるべくひろく認める趣旨が伺われるにしても、同じ地方税法の規律の趣旨を没却することまでを地方税法自体が許容しているとみること(それは、地方税法の自殺行為である)はできないからである。

したがって、たとえば、事業税の課税権限を与えられている都道府県が、実質的に「第二事業税」と評価されるような法定外税を設けることはできないというべきである。同じく市町村が、実質的な「第二固定資産税」を設けることも、同様に許されない。

こうした観点からみると、神奈川県が採用しようとしている「臨時特例企業税」は、一定規模以上の法人の所得に対して、繰越欠積金の額を限度として課税するものであって、実質的に法人事業税に対する一定の上乗せ課税とみることができる。

 

 

 

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