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税源充実策としての課税自主権の活用

―法的観点からの検討―

 

東京大学法学部教授 碓井光明

 

1. はじめに

地方団体の税源充実策には、ただちに充実させる短期的・直接的な対策と、長期的・間接的な充実策とが考えられる。

通常税源充実策として念頭におかれるのは、短期的・直接的な税源充実策としての法定外税の課税や超過課税の実施である。これらを実施するには、条例の定めが必要であって、その負担増について納税者の抵抗を受けやすい。さまざまな反対圧力を説得して議会の了承をとりつけなければならないのである。ちなみに、こうした条例の制定・改正については、たとえば、「議会を招集する暇がないとき」(地方自治法179条1項)にあたるとして専決処分の対象にすることは、許されないと解すべきである。地方自治法の形式的な解釈に終始すべきではなく、租税法律主義の基本に戻って考察する必要がある(1)。

他方、長期的な税源の充実の観点からは、税源涵養策としての課税免除や負担軽減措置も忘れるべきではない。しばしば見られる工場誘致の目的による固定資産税の課税免除などは、まさに長期的には税源の充実の貢献するものである(もちろん、住民に雇用の機会を与えるなどの政策によることが多いが、それは、当該企業からの税収のみならず、雇用される住民の住民税の税収も期待される)。そして、あまりに強力な短期的税源充実策を講ずることが、かえって税源を疲弊させて、長期的には税収を枯渇させる要因となることにも注意しなければならない。また、税収が低迷しているときに、なぜ負担軽減をするのか問題とされることがあるかもしれないが、長期的な展望にもとづく税源充実のための負担軽減措置は、その決断には慎重さを要するにしても、大胆に採用する勇気も必要とされるであろう(2)。それは、確かな地域計画に基づくものでなければならない。

以下においては、これらのうち、直接的な税源充実策について検討していくことにしたい。

 

 

 

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