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法人所得課税の存在理由については、いろいろな考え方があり得るが、受益と負担の明確化の観点からすると、企業経由で個人が間接的に受ける行政サービスによる便益のうち、商品・サービスの価格低下や品質向上等を通じて受ける便益は、非常に曖昧で誰に帰着しているか見分けにくい。そのため、そういう不明確な便益に対し個人課税で負担を求めることは、かえって不公平になるおそれがある。したがって、企業経由で個人に帰着するこれらの便益については、企業段階で課税することによりある種の公平性が確保されることになるのではないかとの説明が可能である。

 

6] 法人事業税の外形標準化の意義

法人課税でも、所得課税ではなく、外形標準課税にすれば、景気変動に関わらず行政サービスの対価として支払うということが明確になり、企業の負担感も明確かつ公平なものになり、納税企業と自治体との間で緊張感や説明責任も生まれる。

また、現在法人の3分の2が欠損法人であり法人事業税を負担しておらず、外形標準課税の導入は、これら欠損法人の税負担を増加させることになる。このことは、法人企業やその関係者が税負担又は行政サービスに対する意思表示を、投票行動を含めより明確に表すようになることにもつながるものと考えられる。こうした観点からは、東京都の銀行業等に対する外形標準課税のように、外形標準に対する課税であっても特定の業種や大企業にだけかけるやり方は、かえって受益と負担の関係を不明確にするものであり問題が大きい。

このように、外形標準化により、受益と負担の明確化、企業から行政に対する意思表示の活発化が図られるが、国税の法人税からの独立性も高まるため、地方公共団体は、納税者・有権者の声に基づく独自の判断として、増税・減税を検討し実行することが容易になる。

さらに、所得課税から外形標準課税への移行により、税収弾性値が低くなるので、都道府県は自然増収に依存した地方財政運営がやりにくくなる。財政支出には下方硬直的な性格があり、税収が好調なときに膨張した歳出は、不景気になって税収が減少しても削減しにくいメカニズムがあるが、外形標準課税の導入は、そのような歳出の膨張を抑制する意義をも有すると考えられる。

 

 

 

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