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第4章 近代化と改革の軌跡

「アングロ・アメリカ諸国は、なぜ改革王国の中心なのか。改革は、そこから引き抜かれて、政治も行政も異なる環境に移植されると、どのような道をたどるのだろうか。」

(Peters, 1996a, p.115)

 

4.1 体制から軌跡まで

 

前章では、十ヶ国の、比較的永続性のある―だが変化は緩慢な―政治行政体制に加え、欧州委員会も検討した。以下では焦点を移して、より急速で短期間の変化、すなわち改革そのものに目を向ける。アングロ・アメリカ諸国は、ほんとうに改革ばやりの世界の中心なのだろうか。各国の政治行政体制という観点から見れば、どの国も出発点は異なっているが、どの国も同じ道をたどってきたと、どの程度まで言えるのだろうか。明確なパターンがあるのだろうか。それとも、その場しのぎの策を戦略と称しているだけなのだろうか。

 

本章ではいくつか疑問を提起し、本書の最後までかけて、それらについて徹底的に研究する。いつもながら、「事実」が多すぎて、だれだろうと、とてもすべてに精通することはできないだろうから、説明は選択的に(それに、それゆえ解説的)にならざるをえない。われわれの最初の作業は、第2章で提示された変化のモデルを用いて、各国での出来事の「基本」らしき事象の要素を体系的に整理して実際的なカテゴリーに分類する。本章においても、広範にわたり比較を用いて展望する方法を採用し、類似と相違のパターンを探す。この作業を進めるにあたり、‘軌跡’という考えを用いて、データを区分けする。

 

4.2 軌跡とシナリオ:考え方の予習として

 

軌跡とは、ここで提起されているとおり、単なる傾向という意味ではない。傾向とは、データ中のパターンにすぎない(たとえば、10年のあいだ毎年降雨量が増した、というのは傾向である)。それに比べて、軌跡は‘意図的な’パターン―だれかが選び取ろうとしている道筋―である。この軌跡によって、人は出発点(アルファ=α)から、どこかの好ましい地点(オメガ=Ω)へと導かれる。それゆえ‘シナリオ’は3つの基本要素、すなわち初期状態、軌跡、それに将来の状態からなる(図4.1)。

 

 

 

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