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第1楽章:曲は、オーケストラ全体にわたるモノディではじまり、次第に速度と強度を増してゆく。頂点に達すると、モノディは破裂し、それまでのモノディの断片でつくられる六つの部分を合わせた一つのテクスチュアとなる。

 

第2楽章:より静かな楽章。様々なリズムの積み重ねで構成され、穏やかなうねりのような効果を生み出す。このテクスチュアの上にいくつかのメロディがあらわれ、終わりに向かって2部に分かれた低音楽器が最低音域で現れ、オーボエが曲をしめくくる。

 

第3楽章:1曲目を終わらせた爆発が3曲目のスタートとなる。曲は、全体が、最初に出てきたモノディの写しで、絶えず移り戻る対位法を生み出す。徐々に曲が形作られ、最後にオーケストラ全体による一つだけのコードで緊張が解かれる。

 

第4楽章:5曲のなかで最もシンプルな曲。一連のコードが異なったオーケストレーションによって繰り返し奏される。音はほとんど最小限まで抑えられ、終曲で解放される。

 

第5楽章:終曲は、クレッシェンドの一つの流れというアイデアに基づいている。これは、音量と音色が絶えず変化する一つのテクスチュアを生み出す。音楽は、いくつかの中断をはさみながら、徐々につくられ、7オクターヴに広がる怪物的コラールに達した後、ゆっくりと冒頭の音楽の内側への破裂となって終わる。

 

FINALIST'S PROFILE

木下正道(日本)

Masamichi Kinoshita, Japan

 

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1969年2月4日生まれ。ハードロックバンドなどで活動。その後、東京学芸大学にてピアノや作曲を学ぶ。97年と99年に個展を開く。

 

programme note

サラ―ユケルIII

Sarah-Yukel III

Sarahは女の名、Yukelは男の名。ジャベスの「問いの書」を参照しつつここでは二人の、または複数の(不可能な)愛の敷衍と、その終焉(死ではない)を追う。

7群に分割されたオーケストラが、幾つもの入れ子になった対話の関係の中で、しかしそれらが幾分も空間の多様性を円満に顕揚すること無く、むしろその非連続性、断絶性を露骨なまでに立ち現せ、次第に不条理な沈黙に食い破られていく様を、刻々と記述していく。

そして空無に根こそぎにされた時間/空間は、音楽作品という名の明白かつ残酷な持続の中で、ただひたすらな無言、不実を選ぶ/聴くことしか出来ないのである。

 

 

 

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