日本財団 図書館


白石●“早熟の天才”というイメージがありますよね。《交響曲第1番》を書いたのも15歳でした。彼が優れた指揮者になったのも、その天才的な聴覚によるところが大きいでしょう。

沼野●面白い指揮者ですよね。特に木管の使い方とか。昨年11月のN響の演奏会などはとても印象に残っていますが、どの声部もよく聞こえてくる演奏で、その点では彼の作曲様式とよく似ていると思いました。きっと根本に、奏者一人一人を大事にするという気持ちがあるのでしょう。

猿谷●ニューヨーク・フィルやボストン響のメンバーに話を聞いても、リハーサルの仕方など含めて、非常に評判がいいですね。ただ皮肉なことに、指揮者としての活動が忙しくなればなるほど、作曲に割く時間が少なくなるという矛盾を抱えていて、僕もそれはとても残念に思います。指揮だけでなく、もっと新しい曲を書いてほしいですから。

沼野●スコアを見ると、あまりにも緻密で、どの声部も非常に凝った動きをしているので、実に「不経済」な作曲家という気がします(笑)。この書き方だと長い曲は難しいのでは、なんて思ってしまう。実際、ある種“ミニアチュール”の作家とも言えますよね。最後の交響曲(第3番)も79年の完成ですから、やはり長い曲というのは、どこか苦手という部分もあるのではないでしょうか。

猿谷●それは、作曲に長い時間を割けないという現実的な問題もあるかもしれませんね。でも去年だったか、大きい作品に取り掛かろうと思っているという話を聞いたので、期待しているんですけれど。

白石●それは楽しみ。いまナッセンが大作を書いたらどうなるか、すごく興味がありますね。

 

猿谷紀郎(作曲家)

Toshiro Saruya

 

004-1.gif

 

慶應義塾大学卒業後、ジュリアード音楽院作曲科に留学、同大学院を卒業。BMWミュージックシアター賞、芥川作曲賞、出光音楽賞、尾高賞などを受賞。98年ロンドン・シンフォニエッタ委嘱作品《Flair of the Seeds》がナッセンの指揮により初演された。

 

白石美雪(音楽学)

Miyuki Shiraishi

 

004-2.gif

 

ジョン・ケージを出発点に幅広く現代の音楽を研究。『はじめての音楽史』(音楽之友社)、『武満徹 音の河のゆくえ』(平凡社)の分担執筆ほか論文多数。武蔵野美術大学教授、東京学芸大学講師、国立音楽大学講師。

 

沼野雄司(音楽学)

Yuji Numano

 

004-3.gif

 

東京音楽大学専任講師。20世紀音楽について幅広く研究。リゲティ、ベリオなどに関する論文多数。最近はルーズベルト時代のアメリカに興味を持っている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION