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だから、私はやはり、そういう現場を見せるということはとてもだいじで、主人の亡くなるときに、神父さまがいよいよ最後のお別れのときに、その主人の亡くなった体があるんですけど、孫たちに「ここにいるおじいちゃんはもうおじいちゃんの着物だけだよ。おじいちゃんの魂はもう天国に行ってるんだよ」とおっしゃったんです。私もそれを聞いて、スーッと悲しみが薄れました。おそらく孫たちも将来大きくなって、おじいちゃんの死のことを考えたときに、その神父さまが言ってくれた、「これはおじいちゃんが着ている着物だけなんだよ」と言ってくださったことを、やはり思いだして、復活とか、そういうことを子どもなりにちゃんとわかるだろうと思うんですね。ですから、私は、仏教では何ていうのかわかりませんけど、そういうことは若いとき、なるたけ子どものときから経験させるべきだと思っています。

 

永石 木場田さん、いかがですか。

 

木場田 私はこの会場にたくさんみえています同じ職種の方、看護学生の方に伝えたいメッセージがあります。それは表現は難かしいのですが、患者さんご家族に対して関心をもちつづけること、それを表現していくことが大切ではないかということです。

患者さん、ご家族は死を前にしてさまざまな反応を示されます。私がホスピスで働きはじめて初めて受け持たせていただいた患者さんは、すべての看護婦を拒否されたんですね。熱を計るどころか返事もしない、部屋に入ったとたん、「シッ、シッ」とされるような状況で、顔を見ようとすると布団をかぶる。そういった状況でした。それでも朝から挨拶の声かけをして、窓を開けて、空気の入れ替えをして、けっこう口がかわくという話でしたので、必ず氷水を枕元に絶やさないようにしていたんですけども、その方は一旦自宅療養になりまして、再入院されたときには意識がありませんでしたので、その方との直接のお話はできませんでしたが、亡くなられたときにご家族から、「だんだん表情がなくなってきて、家族にもちょっと感情を閉ざしたように思えるような感じになったんだけども、ある日面会に行ったら、『ここの氷はおいしいんだよ。ほかのものは何も入らないんだけども、ありがたいねえ』って、そのときうれしそうな顔をしたっていうのが今、頭に残ってます」と言われたときに、あ、やってきたことは間違ってなかったなあと。患者さんをずっと見守っているという自分たちの姿勢はどこかに通じて、わかっていただけたんじゃないかなというふうに思いました。

やっぱり病気になると心も沈んできますし、孤独感というものが非常に強くなると思います。

 

 

 

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