日本財団 図書館


私たちは生涯を通していろんな苦しい体験がもあります。皆さんも苦しみのない人は一人もいないと思います。しかし自分は苦しんでいても、それにもかかわらず相手に対する思いやりとして微笑んだり、笑顔をみせる、ことは愛のしるしのユーモアです。今日は看護婦さんがとても多いそうですが、たまに疲れていたり、家族とうまくいかないときがあっても、にもかかわらず患者に対する思いやりとして、ぜひ笑顔で接して下さい。これが本当に美しい愛の表現ですね。

私が、ユーモアの大切さを発見したのは、私の人生でとくに苦しいときでした。日本に来てからの2年間はとても苦しかったです。私が日本に来たときの日本語の知識はただ二つの単語だけでした。「さよなら」と「フジヤマ」でしたね。誰かにフジヤマは間違いだと指摘されたときには非常にがっかりしました。私の日本語の知識の50%は誤っていたということですから。一所懸命日本語を勉強したんですが、なかなか上達しません。そのころある親切な日本の家庭に招待されましたが、向こうはドイツ語はぜんぜんできなくて、英語が少しわかるだけだと言います。心配した私はアメリカ人の友達に、どうしたらいいかと聞きましたら、彼はあんまり心配しなくてもいいです。三つのルールを覚えてください。第一はよくニコニコしてください。第二はよく頷いてください。第三はたまに「そうですね」と言ってください(笑)。私はその三つのルールを覚えてその家にいって、ニコニコしながらよく頷いて、そして五分ずつに一回の割合で、「そうですねえ」と言いました(笑)。奥さんの顔を見ると、とてもうれしそうでした。わかったと思ったんですしょうね。もちろん私は何もわからなかったんですが。まあわりあいうまくやったんですが、ごちそうの終わりごろに、大きな危機が訪れました。奥さんが「お粗末さまでした」と言ったときに、私も頷いて、ちょうど五分経っていたので、心から「そうですね」と言ったんです(笑)。それで奥さんの顔を見ると、ちょっと合わなかったらしいと気がついたんですが、そのまま家に戻りました。アメリカ人の友人に、「オソマツサマって何ですか」「いや、君はそのときに『そうですね』とは言わなかったろうね」「いや、心から『そうですね』と言った」「いやあ、それはまずかったね」と言われました(笑)。意味がわからなかったとき、まず、自分に対して激しい怒りを感じました。結局、私がこれからいくら日本語を勉強しても、また同じような失敗を何度も繰り返すでしょう。自分の失敗を相手と一緒に笑い飛ばす自己風刺のユーモアを身につける必要性を痛感しました。

時間になりました。今日、私たちは、とくに八月の長崎で死について、ご一緒に考えました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION