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疫痢というのは赤痢に似た消化器系統の伝染病でありまして、だいたい一週間の間に、かかった人の四割は死ぬという難かしい病気であります。ですから、夏休みの間に忽然とその友達が亡くなる。そして、その友達のお葬式に行くということもあったわけでありますが、今はそのようなことはまったくといっていいほどないわけです。日本人の子どもの生まれる出産率は世界一低く、だいたい平均夫婦の間には 1.39人しかないということでありますので、あと50年すると日本の人口は半分になるであろうと言われます。たいへんな日本の危機です。今のような状況が続くかぎりにおいては、日本の国民の数は半分になってしまう。しかも残る人は老人ばかりになってしまう。これでは世界のなかに日本は立っていくことはできない。

そういうようなことを考えながら、いったい命はどういうものであるかということと、生まれた子どもをどのような環境で育てるかということを考えなくてはならないのですが、どのような環境で育てるかということを申しますと、多くの人々は、どこの学校に入ればいいか、小学校、中学はどこがいいか、どこの塾がいいかということで、進学率の高い塾で日曜日も旗日もお休みなく勉強させて、名門の大学を狙うわけであります。日本人は世界でいちばん高学歴と言われますが、人口の98%が高校を出ているというのは世界中を見ましても日本のほかにはないわけです。アメリカやカナダや、あるいはオーストラリアその他は、方々から難民がどんどん移住してきたりしますけれども、日本はノーと、帰りなさいということでみんな帰してしまいます。日本人だけのお世話で済んでいるから、このようなことができるわけで、これは必ずしも名誉なことだとばかりはいっておられないわけであります。

私は神戸で育ちましたが、埋めたてて立派な島がたくさんできています。戦争をしないで領土を拡げているのです。それは日本人のためにやっているんですよ。そういう私たちの思いが、日本だけよければいいという島国根性になってしまったから、それがあたりまえのように考えているけれども、私たちは、アフリカ大陸の中には食べるものがなくて何万人もの子どもが死んでいるということをテレビでは見ることができるけれども、それが自分のそばにある問題としての実感がない。

私の尊敬するアメリカのコロンビア大学の教授は、あの多くの難民のことや、亡くなっていく何万人という統計的な数を聞いただけで、心が痛むというような感性をもったお医者さんになってほしいといっておられました。人間の感性というものは、その人の生まれつきのものはあるかもわかりません。ナイチンゲールは、生まれつき感性が豊かでない人は看護婦の勉強はやめなさいという厳しいことを今から 140〜150年前に言っておりますが、私は、生まれてからの環境のなかで感性というものはずい分涵養できると思っております。

 

 

 

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