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第6章 結論―マニュアルの性質と今後の方向性

 

今回の調査では、まず、オニヒトデの分布とその被害の現状を把握した(第2、3章)。さらに、これまでに蓄積されている情報と、行動特性、特に成体の移動についての調査結果(第4章)に基づいて現時点で有効と考えられる駆除方法をマニュアルにまとめた(第7章)。第6章では、この調査で得られた結果とマニュアルの位置付け、さらに、オニヒトデ問題あるいはサンゴ礁保全の今彼の方向性についてまとめた。

 

(1) 調査結果から

1996年ごろから沖縄本島でオニヒトデの大量発生が再び頻繁に報告されるようになった。ところが、第2、3章の概略調査および現地調査から、オニヒトデの大量発生は、沖縄本島の残波岬やチービシなどの一部地域を除いて、ほとんど見られないことが明らかになった。これには、1998年夏に前例のないほどの規模で沖縄の広範囲のサンゴ礁を襲ったサンゴの白化現象がサンゴ礁群集を変化させ、それがオニヒトデの分布や密度になんらかの影響をおよぼしたのかもしれない。

しかし、沖縄本島周辺では1998年の白化を生き延びた貴重なサンゴ礁であるチービシや、残波岬をはじめとする本島中部のリゾート地域周辺のダイビングポイントなどには、かなりの密度のオニヒトデ個体群が存在することも明らかになった。白化後も生き残ったこれらのサンゴ群集をオニヒトデが集中的に食害している可能性があり、サンゴ群集の保護の観点から注視する必要がある。

オニヒトデの高密度集団が少ない今こそ、オニヒトデに関する基礎的な研究を継続し、今後のオニヒトデの大量発生に対する体制の整備が肝要である。そうしなければ、過去にそうであったように、オニヒトデ大量発生が生じたときに直ちに駆徐体制を整備することができず、対応策が採られる時には既にほとんどのサンゴが食害されてしまっているという事態を招く危険がある。現在は広範囲のサンゴが1998年の白化現象で斃死している(長谷川ら1999、Fujioka 1999、谷口・岩尾・大森1999、茅根ら1999、山里1999)。しかも、白化では枝状、あるいはテーブル状で比較的成長の速いミドリイシなどのサンゴ種の死亡率が高く、塊状あるいは匍匐状のキクメイシなどのサンゴ種は比較的よく生存した傾向があった。また、これらの成長の速いタィプのサンゴはオニヒトデが好んで食べるサンゴでもある。つまり、生サンゴの被覆度が減少し、オニヒトデが通常摂餌しない塊状や匍匐状のサンゴを食べるようになっている可能性がある。そうであれはオニヒトデ食害がサンゴの種構成など群集構造に及ぼす影響は甚大でしかも長期間に亘る結果となろう(Sano, Shimizu & Nose 1987, Done 1988)。さらに、サンゴの生存に負荷をかける赤土の流入や自然海岸の減少に現在も歯止めがかかっているわけではないことを十分に考慮する必要がある。

 

 

 

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