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(2) 作成したマニュアルの位置付け

インド・太平洋のサンゴ礁でこれまでに蓄積されてきた研究成果および本調査事業での行動特性調査の結果をもとにマニュアルを作成した。作成にあたっては、Lassig(1995)やMoran(1988)が参考になった。マニユアルは、単に効率良くオニヒトデを殺す方法だけを記載したものではなく、マニュアルの使用者がオニヒトデを駆除することの意味を考えることの出来るものを目指した。つまり、これまでに知られているオニヒトデの生物学的特徴と、まだ解明されていない生活史の問題などに触れた。したがって、大量発生の原因が特定されていない状況で、過去の失敗例を踏まえて、どのような時に、どこのサンゴ礁を、どれくらいの範囲で守ることが現実的に可能なのか、駆除の効果をどう評価するのか、さらに駆除に関して考慮すべきさまざまな問題(費用、事故、制約など)を記した。

現在、オニヒトデ駆除に関し、どのような場合にも、どのようなサンゴ礁にでも当てはまるような方法は見当たらない。これは、単に必要な情報が欠けているからというのではなく、適した駆除方法(駆除しないということも含めて)が対象となるサンゴ礁の状況によって異なると判断されるからである。ここで、状況というのは、そのサンゴ礁のもつ価値、管理・利用の形態、地形的な性質(岸からの距離、深さ、複雑さ)、生物学的な性質(オニヒトデの密度、サンゴの被度、生物相)、さらに配置可能な人数と能力、利用できる手段や機材などである。したがって、駆除方法については複数のものを、その利点と欠点とともに記した。

最も適した駆除方法とその効率は上記のような状況に左右される。しかし、これまで駆除事業はさかんに行われてきたものの、その効果についての調査が不充分であったため、駆除の効果に関する情報が不足している。したがって、より優れた駆除方法を検討する際には、サンゴ礁の状況や駆除前後のオニヒトデ個体群に関する情報のさらなる蓄積が不可欠である。つまり、駆除マニュアルは一度作成すればそれでいいというわけではなく、常に使用者からのフィードバックにより改良して行く必要である。マニュアル使用者との密な情報の交換を要し、場合によっては使用者が企画する駆除に研究者が参加してデータを収集する作業も有効な手段と考える。

さらに、オニヒトデの分布調査、個体群の規模の見積り、駆除の計画を立てる際に生じる疑問に迅速に対応する必要がある。そのような体制があってはじめて、マニュアルが活用されることが期待できる。

 

(3) 今後のオニヒトデ問題の方向性

オニヒトデの大量発生が問題となるのは、サンゴ礁の保全が望まれるからである。しかし、その保全すべきサンゴ礁の現状を継続的に知るための体制が、現在のところ沖縄県では、一部の海中公園地区をのぞいては存在しない。サンゴ礁の保全のためには、サンゴ礁の状態を示す物理化学的な変数(例えば海水温度や潮流)、生物学的な変数(例えば生サンゴ被度やオニヒトデ分布密度)さらには社会学的な変数(例えばサンゴ礁の利用状況や人々がサンゴ礁に置く価値)に関して現状を把握することが不可欠である。

 

 

 

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