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(8) 残された課題

現在、オニヒトデの生物学として残された課題を、海中公園センター(1984)、横地(1995)などを基にいくつか列挙する。

● 浮遊幼生期の種の査定法の開発(これにより、浮遊幼生の生息密度を推定し分散や減耗を知ることが出来る)。現在のところオニヒトデの浮遊幼生は他のサンゴ礁棲のヒトデ類と酷似していて同定困難である(Yamaguchi 1973)。

● 幼生の着底時の行動や基質の選択性などの着底場所の条件を明らかにする、

● 着底・変態からサンゴモ食期稚ヒトデに至る底生生活初期の過程を解明する、

● サンゴモ食からサンゴ食への移行の引き金と移行過程での滅耗を調べる。

 

1-3. 本調査の目的

以上の議論から、現在、オニヒトデの大量発生は、従来も生じてきた自然現象ではあるが、人為的な複数の、未だ特定できない要因(富栄養化、捕食者の捕獲など)によりその頻度や程度が増大したと考えられる(Birkeland & Lucas 1990)。オニヒトデの大量発生は、サンゴ礁生態系に大きな影響を及ぼすと考えられ、それは水産業や観光業の分野で大きな経済的な損失をもたらす可能性がある。したがって、オニヒトデの大量発生に対し、なんらかの対策が求められる。

ひとつの方向としては、オニヒトデを含むサンゴ礁生態系についての知見を得るための研究を継続すること。これには、モニタリングにより、時間空間的な変動を知ることを含む。もうひとつは、サンゴ礁の持つ経済的、文化的、審美的、科学的、教育的な価値を正確に評価した上で、価値を有するサンゴ礁を選択し、対症療法的ではあるが、そのサンゴ礁を食害から守る技術を開発することである。駆除地域を限定することは、駆除によって発生するかもしれない予期せぬ影響(例えば、種多様性の減少とか、オニヒトデの間引き効果による個体群の維持とか)を最小限に抑えることができる。また、小規模な駆除だけが、実現可能性を持つことを過去の経験は示している。

これらの全てを単一の研究計画により、短期間に達成することはもちろん不可能である。したがって、この調査では、現実的な目的に焦点を絞る必要がある。本研究では、上記の複数の方向のうちのもっとも緊急性の高い部分に重点を置くこととした。すなわち、沖縄では、駆除事業は大々的に行われてきたが、駆除の効果を調べるための調査は十分にされてこなかったことと、一般には、これまで行われてきた広範囲のサンゴ礁を対象とする駆除は失敗であったと評価されていることから、現在の被害状況を把握し、最も適したオニヒトデ個体群コントロールの方法を検討することを目的とした。

まず、1993年以来オニヒトデの分布についてのまとまった調査はなされておらず、現在のオニヒトデの分布状況が不明であったため、オニヒトデの分布状況と被害状況を把握するために、沖縄全域85地点を調査した。また、駆除の方法やその効果に影響を及ぼすであろうオニヒトデの行動についての知見を得るための実験を実施した。さらに、実際に駆除を行いその効果を調べることにした。最終的に、これらから得られる情報をもとに、駆除マニュアル案を作成した。

 

 

 

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